アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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妹島和世+西沢立衛/SANAA - 環境と建築
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2013 東西アスファルト事業協同組合講演会

環境と建築

妹島和世+西沢立衛/SANAA
KAZUYO SEJIMA + RYUE NISHIZAWA / SANAA


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豊島美術館

西澤瀬戸内海に浮かぶ直島の隣にある豊島てしまにつくった美術館です。直島で安藤忠雄さんやジェームズ・タレルさん、宮島達男さんなどのアーティストと一緒に現代美術と地域再生のプロジェクトをされている、公益財団法人福武財団理事長の福武總一郎さんが始められたプロジェクトのひとつです。

「豊島美術館」俯瞰。
「豊島美術館」俯瞰。
「豊島美術館」西側外観。右がアートスペース、左がチケットセンター。
「豊島美術館」西側外観。右がアートスペース、左がチケットセンター。

豊島は緑が豊かな島です。この仕事は、アーティストが内藤礼さん、キュレーターが徳田佳世さん、設計は鹿島建設で、内藤さんの作品一点だけを永久展示する、展示替えのない美術館というものでした。そこで、作品と建築とが調和した、一体的な空間体験、作品と建築と環境が連続し合う空間をつくりたいと思いました。

周辺環境は自然で、「直線がない」世界です。山も丘も全部、非数字的な、自由なカーブでできています。その環境に合った建築、ということから水滴のかたちを思い付き、一筆描きの自由曲線で内藤さんの作品のためのワンルーム空間をつくることにしました。建設場所には、元もと棚田で使っていた泉がありましたが、棚田が使われなくなっていく中で、この泉も使われなくなっていました。この建物は地形に合わせてかたちをつくりましたが、結果的に元もとあった泉にほぼ近いかたちになりました。

「豊島美術館」開口2よりアートスペースを見る。
「豊島美術館」開口2よりアートスペースを見る。
「豊島美術館」アートスペースから外部の木々を見る。左にエントランスが見える。
「豊島美術館」アートスペースから外部の木々を見る。左にエントランスが見える。

この仕事も佐々木さんとのコラボレーションですが、最終的にコンクリートシェルストラクチャーを採用することになりました。最大スパンが60メートルの、壁や柱に支えられない無柱空間です。ドームやクーポラのようなシンメトリーなかたちではない三次曲面なので、どうつくろうかと、施工を担当してくださった鹿島建設の豊田郁美さんと随分議論をしました。ベニヤ型枠だと三次元曲面をつくるのが難しいので、ベニヤ型枠はあきらめて、土で型枠をつくることにしました。基礎をつくる時に出た土を使って山をつくり、それを雌型にするという方法です。土は、自由造形がいくらでもできます。またこの建物は低いシェルなので、型枠建設に足場を組む必要がなく、型枠を軽量化する必要もなかったというのもあります。シェルは本当はもっとライズがあった方がよいのですが、ここではなるべく天井を下げて建物の高さを低くして、水平方向に広がっていく地形との関係が感じられるように、また、内藤さんの作品は水が床から湧き出て泉をつくるものなので、床がメインとなる空間を作るように考えました。最高高さは約4メートルで、横から見ると向こうに木が見えるくらい低い建物です。豊島のこのエリアは自然と農業の風景が美しく、棚田や坂道など半分人工的なものと自然とが調和しています。人口なのか自然なのか分からない、丘のような建築を目指しました。

シェルストラクチャーは構造的に分割できないので、全部一度にコンクリートを打つ非常に大きな工事になりました。朝から翌日の朝まで、夜を徹しての非常に大変な工事でした。シェルには何カ所か大きな孔を開けていて、打設後にそこから中に入って中の土を搔き出していって、徐々にシェルの下に空間ができていきます。この孔が大きく、13メートルくらいあります。初めはこの大きな孔をどう塞ぐかという問題がありました。結局、ガラスで塞がずに開放したままで完成、ということになりました。ガラスを入れると内部が閉じた空調空間になってしまうので、最終的にはこの孔を塞がずそのままオープンなかたちにしました。雨が中に入り込んできて、内藤さんの作品に合流するような空間です。

「豊島美術館」施工風景。夜中にようやく半分まで打設できた。
「豊島美術館」施工風景。夜中にようやく半分まで打設できた。
「豊島美術館」施工風景。中の土を搔き出したところ。
「豊島美術館」施工風景。中の土を搔き出したところ。

「豊島美術館」アプローチの周回路。
「豊島美術館」アプローチの周回路。

それから、ランドスケープを一周できる周回路があります。チケットを買っていきなり作品にアプローチするのではなく、周回路を歩きながら、福武さんが取り組んでいらっしゃる棚田の再生事業を見て、森を見て、瀬戸内海の美しさを見てと、豊島の持っている財産を感じながら、徐々に内藤さんの作品に近付いていくという動線です。内藤さんの作品は、泉が湧き出てくるもので、どこか自分に向き合うような、自然に向き合うような、静かな作品なので、ひとりで入ってひとりで出てくるようにエントランスを狭くしました。逆に、内部は自然のスケールを感じるような大きな空間にしています。

「豊島美術館」配置
「豊島美術館」配置
「豊島美術館」平面
「豊島美術館」平面
「豊島美術館」断面
「豊島美術館」断面

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