アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
十八世紀中盤にノリが描いたローマの街の図、「ノリの図」です。プライベート・スペースを黒く塗り、パブリック・スペースを白く抜いて、ローマの十八世紀の状況が示されています。もう一方は、僕の設計した「新島グラスアートセンター」に背景です。新島は、抗火石という軽石が取れる島で、その軽石の採掘場が山の頂上にあり、抗火石の鉱滓を何十年もの間、この山の上から捨て続けています。見方によっては自然破壊になるかもしれませんが、新島を含めたエコ・システムの中から生まれた不思議な景観です。
二つの写真に脈絡はあまりないんですが、「ノリの図」は明らかに削り取られる側で、削り取る側が広場だったり、アトリウムスペースだったりするわけです。何となくこの図を眺めていると、実際には広場がヴォイドで、ソリッドな石像建築との構成であるにもかかわらず、概念のレベルでは硬い石のほうが軟らかく、そしてまた空気のようなもののほうがかたちを主張しているという、現実の硬さとは逆転した見え方がしてきます。
僕がヨーロッパ的な街の中で理解をしている一つのミディアムである都市のグラウンドは、都市の街路を残した、あるいは広場を残した部分をインフォルしている一般的な都市建築物です。具体的には、一階に商店があり、二階から七階ぐらいにまで住居にもオフィスにも使えるところがあり、一番上が屋根裏の住居になっていたりする一般解としてのグラウンドです。僕は日本の街が西洋的な街になればいいとは決して思いませんが、ただこの一般解としての都市のグラウンドが日本ではまだ確立されていないのではないか、新しい人間生活に合ったグラウンドができてないのではないかと思ったりします。
しかし、都市論的なことよりも、もう少し建築概念としてのミディアムを見ていただきたいのです。
軟らかい一つの固まりのようなものを意識しはじめたのは、港区の神宮前に計画した「スペースJー5」からです。
ずいぶん前になりますが、バブル期の始まったころは「先生、ちょっと絵だけ描いてくれませんか」という仕事がけっこう多かったんです。実際に建たなかったものがほとんどで、これもそのうちの一つです。
一階がショールームで、上にオフィスが三つあります。敷地と同じかたちをしています。L字型の敷地で、容積制限があり、道路の反対側から斜線制限があり、北側車線が上がってきて、高さの制限もあるという規制が非常に厳しいところでした。建ぺい率も六十パーセントですから、空隙部を生み出すことを考えなければなりません。
このように東京では条件がいろいろ関係してくるので、発想の順序として、まず最大限のヴォリュームを描いてみました。そして、建ぺい率などいろいろな条件でそれを落としていきました。いろいろなところから斜線が上がってきたりすると、建物は構成的につくってみても、「あ、この端がちょっと当たる」というようなことに常に直面するものですから、とにかく法規と同じかたちのヴォリュームをまず見立て、そこにどういうふうに空隙を開けていくかという手順で進めました。
都市建築物のミディアムとしての軟らかい固まりや石の固まりという一例です。