アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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環境と建築

妹島和世+西沢立衛/SANAA
KAZUYO SEJIMA + RYUE NISHIZAWA / SANAA


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豊島美術館

西沢次は、瀬戸内海の豊島につくった「豊島美術館(2010年)」です。隣の直島は、福武財団理事長の福武總一郎さんが安藤忠雄さんと共に、島の自然の中に美術館を建設し現代アートを点在させ、地域の再生計画を実現させたことで有名です。第一回瀬戸内国際芸術祭(2010年開催)の時に、その活動が直島から瀬戸内の島々を敷地とするものへと拡がりました。豊島もその活動の一環で、美術館をつくることになりました。

「豊島美術館」西側から見る。

「豊島美術館」西側から見る。

「豊島美術館」西側外観。

「豊島美術館」西側外観。

「豊島美術館」東側の開口から見る。

「豊島美術館」東側の開口から見る。

「豊島美術館」内観。内藤礼氏の作品と調和する。

「豊島美術館」内観。内藤礼氏の作品と調和する。

「豊島美術館」は、いろいろな意味で普通の美術館とは内容が変わっています。ひとつは、内藤礼さんの作品を一点だけ展示するということ、そして、展示替えなどをせずにその作品を永久設置するということでした。作品が変わらないということは、建築と作品と環境が永遠に一緒にいるということなので、全体が一体となるような建築のありようを考えました。最初に提案したのは、自由曲線で形づくったダイアグラムでした。直線で建築をつくると、周辺の山を切り開かなければいけなくなるのですが、自由曲線だと、周囲の等高線にそのまま合った建築をつくることができ、周りの地形を造成せずに建築を建てることができます。そういうことから、自由曲線でワンルームをつくることを考えました。カーブは平面だけではなく、立体方向にも出てきます、協働した構造家の佐々木睦朗さんと議論した結果、コンクリートシェル構造を採用することになりました。コンクリートのシェルが長手方向で60m、短手方向で40m、柱や壁に支えられることなく自立しています。シェルの高さをなるべく低く抑えようと思い、シェルの限界である4mほどにしました躯体の施工方法としては、担当していただいた鹿島建設の豊田郁美さんのアイデアで、基礎をつくる際に出てくる土で山をつくって、それをメス型とする、土型枠という工法で施工することになりました。まず土で山をつくって、その上に配筋をし、そこにコンクリートを流す、というものです。最高高さが4mと低いので、仮設足場を組むよりも筒で肩を作ったほうが早いということ、また、シェルは三次曲面なのですが、自由に形をつくることができる土は、メス型としては最適な材料だと思ったのです。シェル表面には、大きな開口をいくつか設けてコンクリートが固まった後に、この開口から中に侵入して土をかき出していって、シェルの下に空間が生まれます。

「豊島美術館」躯体工事の様子。

「豊島美術館」躯体工事の様子。

シェル構造は本来、高さが高い方が構造的に安定しますが、ここでは建物高さをなるべく限界まで下げたのは、ひとつには、自然に囲まれたこの場所では、突然建築物がドンと建ってしまうと違和感があるので、むしろここではドーム建築というよりは、棚田や丘、坂道といった、建物ではないような存在を目指したほうが良いのではないか、と思ったことが理由としてあります。自由曲線で形づくることによって、隣の山と建築が同じカーブを共有します。どちらが先にあったのか、どちらがどちらに従っているのかよく分からないような、調和をつくり出すことができるのではないかと考えました。

建物に開けられた大きなふたつの穴は、どのように塞ぐかいろいろ考えましたが、最終的にはガラスなどで塞がず、それぞれ開いたままで完成させることを、内藤さんに提案しました。雨や風がそのまま入ってくるような状態です。内藤さんの作品は、緩やかにカーブした床面に開けられた、たくさんの小さな穴から水滴が溢れてきて、わずかな床の傾斜に沿って水滴が移動し、その水滴が集まり、どんどんと泉が大きくなっていくというものです。そこに開口から降ってくる雨が合流して、アートと自然が一体化していくと面白いのではないかと思ったのです。


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