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東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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隈 研吾 - デジタル・ガーデニング
二十一世紀に新しい環境技術者として建築家が再生できる道
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隈 研吾KENGO KUMA


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二十一世紀に新しい環境技術者として建築家が再生できる道

最近のプロジェクトでは、昨年一年間、「愛知万国博覧会」の基本構想をやりました。2005年に開催される予定です。敷地は瀬戸市の森です。万博は現在非常に厳しい位置にあります。みなさんもご存知のとおり、実際に東京で開催されるはずだった都市博は見事につぶされてしまいました。博覧会がつぶされる原因は、ひとつには建築の建て方にあると思います。パビリオンという非常に大きな仮設建築をつくることに対しての批判が博覧会批判というかたちで突出してくる現象。都市博に限らず博覧会のたびに博覧会批判は出ます。

愛知万博は、森を敷地にしてどんな博覧会をやったらいいか、という大きな課題があります。通産省が主体になっているのですが、担当者がたいへん困ったわけです。二十一世紀最初の万博という大きなイベントですから、本来ならば大イベントに即した私よりも上の世代の建築家が頼まれるのでしょうが、私と、團紀彦さんと竹山聖さんの三名で案をつくることになりました。去年一年間で作製しました。できる限りガーデニング的に博覧会をやりたい、その森をそのまま見せる部分を多くしたいと考えました。

全体のコンセプトは、中沢新一さんがつくりました。彼は「ウィズダム・オブ・ネイチャー」というのをテーマにしました。「自然の叡智」ということですが、これがたいへん難しい。世界博覧会事務局の西洋の役人たちに、そのテーマがわからないわけです。どうして自然に叡智があるの、というんです。私はこのズレがたいへんおもしろいと思いました。私たちは「ネイチャー・ウィズダム」といわれればなんとなくわかります。ところが彼らは、自然は叡智の反対で、むしろ人間に叡智があって、自然というのはその反対ではないかというんです。やはり西洋と東洋には考え方に違いがあります。英語にしてみるとそういう違いが非常にわかるような気がします。そこで、その質間を受けて、中沢さんが一生懸命答弁しました。

「ウィズダムが人間にあるというのは人間の傲慢であって、自然の中にこそ本当の叡智はある。人間はそれを部分的に引き出しているだけなんだ」と力説しました。彼らはわかったようなわからないような顔をしていました。最終的には日本とカナダが争いました。今はどこも環境寄りのテーマを出さないと博覧会が成立しないこともあって、カナダが「ランド」というテーマを出してきたのですが、大きな敷地の中にバビリオンを建てる都市再開発型の案で、どこがランドなのっていう感じだったものですから、結果的に日本が勝てました。

二十一世紀の最初の博覧会だからおもしろい構想をしなくてはと、ガーデニング的なもので絵を描いたのですが、どういう顛末を迎えるかが、たいへんに興味深いです。ガーデニング的なもので万博が成立するのか、それともやはり土建的な万博にしようとする勢力に逆転されるのか。

土建的なものにしたいという圧力は非常に強いわけです。オリンピックの施設をつくることによって土建業が潤い、その土地が活性化されるという大きな動機があります。土建的なもので世の中を活性化しようというときに、万博やオリンピックが使われるのが二十世紀の典型的な構図です。それが二十一世紀になると、どういう構図になっていくのか。土建で潤うのか、どういう技術で潤っていくのか。それはわれわれ建築家の職能にも非常に大きくかかわってきます。建築家という職能が二十一世紀に世の中のただの嫌われ者で終わるのか、それとも新しい環境技術者として再生できる道があるのかということです。

このテーマは建築だけでなく、すべての技術者にいえる間題だと思います。あなたはその技術で、環境に対して何ができるかと問われていると思います。われわれが知恵を出し合って、その難間を解決していくことが要請されています。建築がどれだけの知恵を持ち得るかにかかっていると思います。世の中困難になっていくでしょうが、いろいろなプロジェクトに当たって具体的に困難を解決していきたいと思っています。

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