アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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坂 茂 - 作品づくりと社会貢献の両立をめざして
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東西アスファルト事業協同組合講演会

作品づくりと社会貢献の両立をめざして

坂 茂SHIGERU BAN


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ユニバーサル・フロア
カーテンウォールの家

ミース・ファン・デル・ローエの「ファンズワース邸」は、透明性という意味において西洋建築史では画期的な作品です。しかし、この住宅のほとんどの窓はフィックスですから、視覚的には透明だけれども、内外空間が連続するようなフィジカルには透明だとはいえません。

それに対して伝統的な日本の家は、襖や障子をすべて開放すると、内外の空間が連続します。ビジュアルにもフィジカルにも透明だということがいえるのではないでしょうか。「カーテンウォールの家」のお施主さんは、古いけれどもとても魅力的な木造の日本家屋に住んでおられました。そこで、開放的でフレキシブルな日本的な住宅の住まい方を楽しんでられたのです。そこに新しく建物をつくる上で僕が思ったことは、彼らがもともと行っていた生活のパターン、クオリティをなんとか維持継承したいということです。そこで外部カ−テンとガラスの引戸を用い、さまざまな場面に応じて空間を閉じたり開いたりすることで、かねてから親しんできた日本の家屋のフレキシビリティを、今後も楽しめるようにしたのです。

ミースはカーテンウォール開発の第一人者ですが、そのカーテンウォールではなく、ただのカーテンを使って壁にしたので「カーテンウォールの家」と名づけました。カーテンが風であおられると、敷地の限界を越えて家の範囲が広がります。

壁のない家
壁のない家
壁のない家

ミースの「バルセロナ・パビリオン」は、僕の大好きな建物のひとつですが、構造的にはとても不思議な建物です。十字形断面の柱がありますが、必ず柱の脇には壁があります。この壁が構造的に効いているのであれば柱は飾りでしかありませんし、また逆もいえます。計算してみると、壁をすべて取り払って柱だけでもこの屋根はもちますし、この壁だけ残して柱をすべて取っても成り立ちます。ですからこの作品は、構造的に非常に曖昧なものだといえるでしょう。「壁のない家」では、建築の基本的エレメント、柱・壁・床などの意味を明確に考えようということをテーマとしました。

この住宅は斜面地に建っています。斜面に住宅をつくる場合、地面から浮いた床をコンクリートや鉄骨でつくるのが一般的ですが、コストを下げるためここでは、斜面の半分だけ土を掘り、掘った土を場外処分しないで首に盛り、地面そのものを平らにつくりかえました。この場合、斜面を掘った部分にできる壁は、当然、土圧を受ける擁壁となります。この擁壁をごついキャンティレバーの壁にせず、床が曲面状に屋根までまくり上がるような形状にすることにより、アーチの効果を上下逆にして土圧をスムーズに床に伝えました。屋根も面剛性がとれる構造とし、その後部をこのめくれあがった床スラブに固定させることで、すべでの横力を床スラブに流すようにしました。このため、前面にある三本の柱は鉛直荷重しか負担せずに済み、直径55ミリという非常に細い柱を実現することができました。日本のような地震国で、このような細い柱は珍しいのではないでしょうか。

このような構造上の考え方を明確に表現するため、建具は奥の壁に収納できるようになっていて、収納してしまえば、トイレや浴室も露出した内外一体の空間となります。引戸は必要に応じて出され、目隠しや間仕切りのほか、外壁の役割も果たします。

はだかの家
はだかの家
はだかの家

この住宅は、埼玉県川越市の畑のど真ん中に建っています。施主からは、倉庫のような家が欲しいという面白い要求がありました。個室にあまりプライバシーがなくてもいいから、メインの空間で家族みんなが時間と空間を共布でさるようにしたいというのです。

敷地の周囲には温室がたくさんあったので、木の架構にFRPの波板を貼った温室のようなかたちの建物としました。外壁は、波板の方向を90度変えた二重壁になっています。二重にすることで間に空間が生まれ断熱の効果が出ますし、縦、横に貼り替えることで強度がアップします。

はだかの家 大広間 可動室がない状態
はだかの家
大広間 可動室がない状態
はだかの家 大広間 可動室がある状態
はだかの家
大広間 可動室がある状態

室内側の壁は全部、膜、つまり布でできています。断熱効果を高めるために、壁の中には蕎麦状の発泡ポリエチレン緩衝材と、相包用気泡パッキング材を詰めました。断熱効果が高くなりつつ半透明な壁にしたく、このような選択になりました。

室内壁のテフロン膜は、マジックテープで着脱が可能になっています。耐侯性の高い汚れに強い膜なので、滅多に外さなくていいのですが、万が一汚れた時には洗うことも可能ですし、奥様がへそくりを隠したりすることもできます。箱状の四つの個室は、キャスターのついた可動室です。この可動室の四方の壁のうち二面は引戸になっていて、これを全部外して直線上につなげばお葬式にちょうどいい細長い骨の空間ができ、さまざまな場面に応じていろいろなレイアウトが可能です。また、箱を外に出して外で寝たりすることもできます。ただ空調だけは部屋の中につけることができないので、大きな空間用に設置された何台かのエアコンの付いた壁や箱をアタッチし、それを利用できます。同併に外を眺める窓が欲しければ、窓のあるところに箱をもっていさます。

部屋の上では子どもたちが勉強したりします。部屋が動きやすくなるよう、軽くするために、個人の持ち物をあまり部屋に待ち込まないようにカーテンで仕切られた納戸をシェアしてもらいます。

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