アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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伊東豊雄 - もののもつ力
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2006 東西アスファルト事業協同組合講演会

もののもつ力

伊東豊雄TOYO ITO


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「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展
「リラクゼーションパーク・イン・トレヴィエハ」模型
「リラクゼーションパーク・イン・トレヴィエハ」模型
「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展の会場風景
「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展 会場風景

「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展では三つの展示室を使ったのですが、そのうち、ひとつの部屋に曲面で構成された波のようにうねった床をつくりました。その床に五つの備品の大きな模型を配置し、正面の壁に「TOD'S表参道ビル」の原寸大のモデルをつくり、両サイドの壁には、作品の原寸大施工図を展示しました。この展示室は通常の建築の展覧会とはまったく違った様相を見せました。建築家の展覧会というと、模型と写真と図面を客観的に外側から見るような展覧会で専門家向けのものが多いのですが、私は、この時、一般の人や子どもたちが見にきても楽しんでもらえる展覧会をやりたいと思ったのです。そして五感で感じる、つまり視覚だけではなくて他の感覚も使って、建物の内部に入ったような感覚を味わうことのできる「感じる展覧会」にできないかと考えました。実際に、波打つ床があるだけで、子どもたちはどんなに走ってはいけないと入場前に言われても、結局は走り回ります。

波打つ床には色の付いた円形の穴が空いていて、そこに潜って低い目線で模型を見られるように設えてあり、子どもたちはそこに潜って動物が巣の中に入ったようにして遊んでいました。展示した模型は1/10から1/20くらいの大きいサイズなので、顔を突っ込めば中を覗き込めて実際に建物の中に入ったような雰囲気を味わえるようになっています。鉄でつくった構造体だけの模型です。「リラクゼーションパーク・イン・トレヴィエハ」はスペインで施工中のスパの計画ですが、このスパイラル状の構造体の内部空間を体験してもらえればと、敢えて半分に切った断面模型にしました。

皆さん床に座り込んだり寝転がったりして、かなり長い時間を過ごしてくださいました。会期中には、床に座りながら、子どもたちやそのお母さんたちと建築について話し合うような時間も持ちました。床が波打ったり、地形のように変わったりするだけで、展覧会の会場の雰囲気がガラリと変わります。静かに神妙な顔をして眺めている会場から、寝転がれたり、自然の中にいるような気楽な気分になれたりする空間に変わります。建築にはこうでなくてはならないという常識みたいなことがたくさんありますが、それを少し変えていくだけで急にみんながリラックスし始める。こういうことが私が建築でいちばんやりたいことなのです。波打つ床はその象徴です。

実は、この波打ったようなうねる床は2006年6月7日から10月3日までベルリンの「ニュー・ナショナル・ギャラリー」で行われた展覧会の会場構成で試みたのです。2006年1月28日から5月7日まで森ミュージアムで「東京−ベルリン/ベルリン−東京展」という展覧会が開かれたのですが、それが6月からベルリンで巡回され、その会場構成を私が行いました。「ニュー・ナショナル・ギャラリー」はミース・ファン・デル・ローエの最晩年の作品で、完全なグリッドの空間でできています。それを私は「グリッドの神殿」と呼んでいます。地下にホワイトキューブの部屋がたくさんあって、そこで「東京−ベルリン/ベルリン−東京展」の大半の展示が行われましたが、一階部分だけは東京にはなかった展示で、新進作家15人ほどの作品を展示するための会場構成を依頼されたのです。全面ガラス張りの無柱空間のようなグリッドの中で、一体どういう会場構成ができるだろうか、ミースという偉大な存在を汚さないように、その空間を汚さないようにと考えました。思い付いたのが波打つ床でした。グリッドが溶けて、そして溶岩のように流れ始めて、うねるような地形に変容していくというテーマで、天井には手を入れずに床だけを触っていくというコンセプトでした。

約1000m²が波打つ床に変わったのですが、15人ほどいたアーティストは、この床に反応する人と拒絶する人とにはっきり分かれました。カタリーナ・グロッセさんというドイツの若いアーティストは、自分の用意していた構想を突然変えて床にスプレーで絵を描き始めました。その上を自由に歩けるし、寝転がっている人もいました。 日本の若いアーティストの三宅信太郎さんの作品は直径2メートルの蜂の巣を天井から吊っていました。下の方に六角形の蜂の巣のような穴をいくつか開け、自分は蜂のぬいぐるみの服を着て、そこに潜り込んで絵を描いていました。この方は最も床に反応した作家で、私は本能的にとても面白いと思いました。どうしてかと言いますと、建築物が自然の地形のように変わった途端に人間が動物のようになる、彼の反応はそういうものでした。現代人はミース的で均質な高層ビルの中で暮らしていて、モノと向かい合うことがなく、コンピュータのモニタとだけ向かい合っています。そうではなくて動物的な本能を目覚めさせるような「もののもつカ」と向き合える建築とはどういうものなのだろうか、ということが、この会場構成のテーマであり、早速、彼は動物になってくれたのでした。

「東京-ベルリン/ベルリン-東京展」ベルリン会場 カタリーナ・グロッセの作品
「東京-ベルリン/ベルリン-東京展」ベルリン会場 - カタリーナ・グロッセの作品
「東京-ベルリン/ベルリン-東京展」ベルリン会場 三宅信太郎の作品
「東京-ベルリン/ベルリン-東京展」ベルリン会場 - 三宅信太郎の作品

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