アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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手塚貴晴 - 屋根に暮らす
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2007 東西アスファルト事業協同組合講演会

屋根に暮らす

手塚 貴晴TAKAHARU TEDUKA

手塚貴晴-近影

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ふじようちえん [2]

この建物ができた時に、家内が現場監督さんに「この軒先歪んでいるじゃないの、どんな現場管理しているの」と苦情をいったら「そりゃあんたの旦那のせいだ」って逆に怒られたんです。私がぐりぐりと描いた線を所員がスキャンしまして、線をつないだ時の形がそのまま残って、でこぼこしているんですね。それをそのまま残してくれといったんです。実はでこぼこしているのはすごく難しくて、実際に屋根も傾いているからシンプルな形のように見えて、実は三次曲面なんです。実際にそこに行けばわかります。1/50から1/30くらいの傾きがあります。軒先が歪んでそうなっている。

われわれの事務所は早い段階でCADを入れた事務所のひとつなんですが、コンピュータで描くとコンピュータの都合のよい形にだんだん変わってくるんですね。それが、悔しくって最近一生懸命手描きに戻しています。

年間の3分の2はあけ放して使用されている
年間の3分の2はあけ放して使用されている

このデコボコしているところをサッシュが回りながら入っていきます。6枚引きです。一年間の3分の2はこの幼稚園は窓をあけっ放しで使います。われわれは高気密・高断熱住宅はよくないことだと思っているんです。フランスにボルドーという街があるんですが、そこにもEUの基準が投入されたんです。窓面積制限です。実は日本もそういうのをやろうという人がいるのですが、とんでもないことだといっているんです。窓の大きさを制限すると熱効率がよくなって空調の効く建物ができる。そうすると省エネのビルディングができますよ、というのが彼らの論理なんです。ところがボルドーでそれを導入したら今まで窓をあけて生活していたボルドーの生活パターンが壊れてしまったんです。夕方になってワインをあけ適当にやっていたのが、みんな空調機の生活になってしまった。しかも省エネのビルディングのはずが、夏の電力消費が増えちゃって供給が追いつかなくなってしまった。これじゃ全然逆ですね。高気密・高断熱はひとつの手法なんだけど、それが先走りするとものすごくエネルギー負荷の高い都市ができてしまう。空調を使うことを前提にして空調が効く建物を高気密・高断熱っていうのですけれども、空調を使わないってことは前提に入っていないのですね。

開口部詳細
開口部詳細

アウトドアライフの勧めとわれわれはいうのですけれども、実はアウトドアが一番贅沢なのです。暑いのが苦手でどうしても冷房のところでしか仕事ができない人が50℃の砂浜に身体を焼きにいくのですね。すごく寒がりのお姉さんがマイナス20℃のゲレンデにスキーに行きます。小さな音が気になる人がテントで泊まりに、オートキャンプ場などのわざわざ外の音が聞こえるようなところへ行ったりします。これは面白いことだと思うのですね。人間というのは雑音や温度差などに対応できるようにできています。ただ何で対応できないかというとそれに付随するよい外部環境がない時に気になるのです。閉じ込めれば閉じ込めるほどそういうものっていうのは問題を起こしていくのです。

この建物はほとんど開けっ放しで使われています。そうすると空調を使わずにすみます。今年は一日しか空調を使わなかったといっていました。もちろん夏休みがあるからですけれども、そのくらい素晴らしい生活なのです。ですから正確にいうと低気密・高断熱がよい。今、シックハウスが問題になっていますね。シックハウスというのは科学の進歩と共に化学物質がたくさん出てきた結果起きていると理解している人が多いですけれども、それは大変な間違いです。今、60歳から70歳くらいの方はDDTを頭からぶっかけられて発ガン性物質漬けになったその中で生き残った方たちなんです。しかも、昔の建材はひどいホルムアルデヒドを出していました。それでも今みたいにアトピーはありませんでした。何でなかったかというと実は建物がすかすかに空気が抜けていたからなんですね。低気密だったのですよ。そうすると化学物質が溜まらなかった。それが高気密・高断熱になったとたんにそういう化学物質が全部閉じ込められて、ちょっとしたことで病気になるようになった。病気にならないようにと機械環境を義務づけて2時間で部屋の空気を全部入れ替えなくちゃいけない。これ、変なんですね。省エネ、省エネっていっていた人たちがすべて機械換気にして、結局エネルギーをどんどん使うようにもっていくのですよ。本当の人間の生活がこれでよいのかというと、そういうわけではないですよね。当たり前に物を見たり聞いたりする力。これを失いつつある。それをもう一回取り戻す。子供たちにそれを教えようとしているのですね。

設備設計の方でイーエスアソシエイツの佐藤英治さんという面白い人がいます。「せんだいメディアテーク」の空調や「関西国際空港」の空調をやった方です。その方から聞いた話です。昔、小坊主が集まって、黴びたお餅を囲んで、これどうして黴びちゃうんだろうって話し合っていた。どうしても答えが出ないから和尚さんのところへ行って「和尚さん、どうしてこのお餅が黴びちゃうのですかね」と尋ねると、「バカ野郎、早く食わないからだ」と怒られた。こういうのって当たり前の感覚なんですね。空気が悪かったら窓をあければいいじゃないですか。機械換気をする前に何で空気が自然に流れるような窓をつくらせてくれないんだろう。そういう当たり前の感覚をつくる側の建築家がなくしちゃったんですね。「当たり前の感覚」を取り戻すということはすごく大事なんです。

この建物は、本当にアウトドアです。秋でも中庭側はあけっ放しで外側だけを閉めています。真夏は中も外もあけっ放しにしています。空間を仕切っているのは背の低い家具です。今、小学校はセキュリティが大切だといって、高い塀で囲ってガードマンを雇っているという話を聞きます。ところが、池田小学校の事件にしてもちゃんと高い塀に囲まれて守衛さんもいたんですよ。悪いやつが入ろうとするのを止めることは難しいんです。当たり前に開かれたところではそんなに事件は起きないものです。人がいないところ、もしくは見えないところでいろんな事件が起きる。だからこの幼稚園は外からすかすかに見えます。人に見られることによって生じるセキュリティ。人の目こそが最大の安全という考え方です。部屋と部屋の間もすかすかじゃなくちゃいけない。

先生の話を熱心に聞く子供たち
先生の話を熱心に聞く子供たち
オープンな空間だが、子供たちに集中力がないわけではない
オープンな空間だが、子供たちに集中力がないわけではない

今どきの建築はどんどん隣との遮音を充実させています。園長先生はそれについて「落ち着きのない子が生まれる。みんなね、お互いに話す時は一生懸命に話を聞くでしょ。盛り場に行ったからってお互いに話ができないかというとそうでもなくて、ちゃんとお互い話ができるのですよ」という。勉強をするためにわざわざ図書館に行きますが、図書館というところは実は結構うるさいのですね。家のほうが静かだったりします。ところが家だとみんな勉強しない。人間とは雑音が必要な動物なんです。雑音があると落ち着く。

この幼稚園には何回もテレビ撮影が入っています。テレビクルーの方がおっしゃってたのは、「ここの幼稚園の園児たちはテレビカメラが入ってもテレビカメラのほうに向かってこない。普通テレビカメラが入ってくると小学校くらいの男の子だと大騒ぎになっちゃうでしょう。それが起きないんですよ、ここは。隣の部屋の音も聞こえるでしょう。ピアノの音も聞こえる。するとみんな先生の話を一生懸命聞こうと思って前を向いているんですね。この幼稚園の机はまっすぐ並べられない机ばかりなのですけれども、でも斜めに並べたり後ろ向いたりして先生の顔を一生懸命に見て話を聞こうとする。これは雑音があるからなんですよ。こういう所で集中力が生まれるんですね」と。それからイジメもないって断言していました。何か起きた時に必ず先生の目が届く。閉じ込められた空間ではないから、そのクラスが嫌になったら、隣のクラスに行けばいいんです。隣のクラスの子がいきなりチョロチョロッと入ってきたりします。それは先生同士の合意ができていればよいということになっています。自分の居場所を子供が選べる。これは社会のあり方と同じですね。そういうことをこの幼稚園でやろうと心がけました。

先生と園児とで自由に間仕切りをつくる
先生と園児とで自由に間仕切りをつくる
空間を仕切るのは桐の無垢材を使用したボックス
空間を仕切るのは桐の無垢材を使用したボックス

部屋と部屋を仕切るパーティションの基本は30センチをモジュールとした木箱です。これをたくさんつくりました。実際には45センチ×30センチとか、60センチ×30センチといろいろあるのですけれども。無垢の桐の箱を組んでつくりました。子供にそれを与えてそれぞれの先生のクラスで勝手に部屋をつくってもらう。それぞれの部屋がみんなそれぞれ違います。それも建築家がつくるのではなくて、先生と園児を中心に、武蔵工業大学の学生も参加してワークショップ形式で、いろいろなシーンをつくるようにしました。だから下をくぐったりする積み木とかができています。

それから流し。流しは壁がないからつけるところがありません。そこで、井戸をつくりました。井戸端会議をしようという考え方です。今の子はコミュニケーションが著しく足りません。洗面台だと、ひとりで壁を向いているからその間は静かになってしまう。井戸端会議の何がよいかというと、お互いが顔を合わせるから否応なしに喋るんです。そういう環境をつくろうと思いました。井戸からは水栓がにょきっと出ていて、それをみんなが譲り合いながら使う。譲り合いというのを子供に勉強させようってことになりました。8人まで一緒に使えます。いろんな使い方ができて、クリスマスツリーになったりもします。

これは部屋の中から伸びている木です。上にネットがあって子供がぶら下がっているのが下から見えます。園長先生は面白いことを考える人で、上から紐をたらして子供をぶら下げてみたりとか、先生がもっている山からたくさんのカブトムシを捕ってきて木の下の段ボールに入れて、ネットの上に子供を集まらせてカブトムシを釣るというイベントをしたりしています。

ワークショップ形式でつくられたインテリア
ワークショップ形式でつくられたインテリア

天窓も「屋根の家」と同じで開きます。こういうところで子供は遊ぶのですね。オープニングの前に子供にこの幼稚園を見せようということで、一クラスずつ屋根の上にはじめて上げたときのシーンを覚えているのですが、子供たちが先生について歩かないのですよ。みんな歩いている最中にこっちの天窓、あっちの天窓ととっつかまって一周する頃には先生ひとりになっちゃう。遊具よりも天窓のほうが楽しい。天窓を覗くと下の友だちが見える。下の友だちも「おーい」っていうので、みんな動きがとれなくなって、てんでばらばらになっちゃうのですね。これは感激しました。建物ができた瞬間に涙がじーんと出てきたのは他にないです。うちの奥さんも所員も涙をボロボロ流して喜んでいました。こんなに建築って強いんだって。

8人まで使用できる流し。井戸端をイメージしている「屋根の家」と同様に裸電球で紐を引っ張って明かりをつける
[左] 8人まで使用できる流し。井戸端をイメージしている
[右] 「屋根の家」と同様に裸電球で紐を引っ張って明かりをつける

「懐かしい未来をつくろう」という話に戻りますが、こんな具合に照明がぶら下がっています、裸電球です。蛍光灯というものは、やはりよくないと思うんです。蛍光灯からは電磁波が出ています。アレルギーの人だと結構致命的なのですね。目も悪くなるし、発ガン性もある。白熱の電球は効率が悪いんじゃないかといわれますが、裸電球でクリア球にすると結構効率がいいんですよ。今の子供はスイッチと照明の関係さえも知らない。この建物は壁がないので壁のスイッチを押してパチッと明かりをつけるというのはできません。昔のように紐を引っ張って明かりをつけます。そういうものも子供は知りません。ローテクのようですが、ちゃんとコンピュータ制御で調光できるようにしてあります。明るさによってどういうふうに全体のイメージをつくるかということを角舘さんにお願いしました。白熱の電球は寿命が非常に短いです。ただ10%明るさを落としてあげるだけで蛍光灯より寿命を保たせることができます。半永久的に保たせることができます。電球って切れるようにできているのですね。ただちょっと調光を落とすだけで全然切れなくなる。

現在、中庭はだんだん緑が豊かになってきています。園長先生のコンセプトとして、ここに緑を生やしていきたい。ただ、きれいな芝生は嫌だと。その結果、牧草がよいということになりました。牧草は伸びすぎちゃうんですが、刈るのは面倒ですよね。牧草を生やすなら、山羊を飼えばよい、その次は馬を飼うとか自然のサイクルを自分たちの力で考えていくんです。たくさんのストーリーがあった幼稚園でした。

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