アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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石井 和紘 - 自己変革時代の建築
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東西アスファルト事業協同組合講演会

自己変革時代の建築

石井 和紘KAZUHIRO ISHII


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環境を考慮する
東京フロンティア会場計画イメージ図
東京フロンティア会場計画イメージ図

建築には環境が大事です。建築をつくっても、それ自体が環境に敵対することがあります。次の建物は都下の国立という小さな街でつくった「くにたち郷土文化館」です。建物の八十五パーセントを地下に納める設計をしました。私は敷地を見たとき、「ここには建物を建てないほうがいいけど、それでは文化館にならない。何か救済措置がないか」と思いました。建物が美しい雑木林を見る邪魔にならないようにしようと考えたのです。せっかく南養寺が残してくれた雑木林ですから、建築が「この雑木林を切り倒すぞ」という構えを見せてはまずい。

武蔵野といえば、国木田独歩が有名ですが、今の子供たちは知りません。だいたい私たちでも、徳富蘆花などの名前は生活の中にあまり出てこない。そこに、さっそうと復活してきたのが、宮崎駿さんの『となりのトトロ』です。メイちゃんというかわいい女の子がストンと穴に落ちてしまう。すると、そこにトトロがいびきをかいて寝ている。トトロの象徴的な場面です。これは雑木林文化を非常によく表しているアニメーションで、ほんとうに涙が出るぐらいによく描けていると思います。宮崎駿さんは、現代の多摩の雑木林文化を表現して下さったと思います。

くにたち郷土文化館
くにたち郷土文化館

そこで、私もそれを試みてみました。エントランス・ブリッジを歩いていくと雑木林の下へたどり着きます。そして階段を降りると、そこにトトロがいるという想定です。道路側からこの建物にアプローチしたとき、雑木林の姿は建築が建つ前と変わらない姿で見えます。サッシュをやめるために、XYZ方向に動くグリップでガラスを止めています。これはいろいろ改良可能で、別のところでも使っています。ガラスに雑木林がずっと映ってきます。下から見ると雑木林がなかなか偉大に見えます。

「北九州市立国際交流センター」の建物です。ご覧のように曲っています。直線的なグリッドでは奈良のグリッドのように日本に直交グリッドが入ってきたのは三回あるわけです。まず中国の文化として入りました。それからヨーロッパから、そして戦後になるとアメリカから入ってきました。都市パターンにはそれぞれ固有性があります。東京の場合、川があり、ちょうど道路の曲りと一体だったものですから、それが高速道路になりました。カーブしているところにビルが直角に立っていて、ドライブしているとひやっとすることがあります。ビル自体が、もう少しトポロジーを生かしたかたちをしているとよいのではないかと思います。 これはミース・ファン・デル・ローエの鉄とガラスの建物です。私はこのミースの建築の近代性と、環境性あるいはトポロジーとを一体にしてみようと考えました。

これは接線曲面ですが、鉛筆の削り屑のように展開できます。ちょうど寿司屋ののり巻きの簾のようなもので、直線面でできていて、それがカーテンウォールになっています。ガラスの映り方がそれぞれの曲面で違っていますから、とてもひとつの建物と思えない。曲っている面がいろいろあって、お互いに映り合っているわけです。なかなか面白い効果で、ガラスにとても魅力があります。 一番上にはコンサートホールがあります。中はガラスを張ってあります。ウォークマン時代のコンサートホールと呼んでいますが、今の人たちはスピーカーから聞かずにイヤホーンを耳に突っ込んで聞いている。コンサートへ行くと、三千円も四千円も払ったのに音が小さいというのです。

北九州市立国際村交流センター
北九州市立国際村交流
センター

中国で講演するとき、「万里の長城もガラスが張られていれば、ジンギスカンが驚いて逃げ帰ったのではないか」というようなことをいいますと、非常に喜んでくれます。日本で話すと冗談で終わってしまいます。

かれらは当然そういうことがあっていいと思って聞いているのです。

最後は、一九九六年の三月に開催予定の世界都市博覧会「東京フロンティア」です。東京都はレインボーブリッジを架けたその向こうに広大な埋立地をつくっています。そこで博覧会が行われます。不景気対策なのか、人に歩いてもらって地盤沈下を促進したいのか、真意はよくわかりません。L型の敷地を伊東豊雄さんが、ご本人と、栗生明さん、山本理顕さん、そして私に地区分けされました。私は、「一万人の茶室」を木造でつくりその茶室を都市化しようと提案しました。それが受けまして都知事も喜んでくれました。とにかく都市化した長大な茶室ができます。

ローエ/IITキャンパス
ローエ/IITキャンパス

この茶室は、間は切れていますが、のぞき目鏡的には全長は三三〇メートルありまして東京タワーと同じ長さです。幅は二〇メートルです。来年中には立ち上がります。建築基準法上はアウトなところもあります。江東区が是非建てるといって、いろんな基準法の読み変えをして建つことになりました。まわりは五〇〇メートル×一〇〇メートルのふるさとの森です。高さ十メートルの樹木を一五〇〇本東京都が全国から集めます。すごいことをするな、と私自身喜んでいます。またゲートを一文字の字のかたちでつくります。それは国産の茶碗第一号にちなんだ「一」です。案内図で「一」という漢字が書いてあれば目立つという理由からです。長さが一八〇メートルある「一」ですから、恐らく実際に書かれた文字としては世界最長です。

マツ丸太を組み合わせた茶室の前にせせらぎを走らせています。この茶室には十の家元がじきじきに出馬して下さるというすごい話になっています。茶室を都市化することと、近世のものを現代化しようという試みのひとつです。

コンサートホール壁面
コンサート
ホール壁面

この博覧会で伊東豊雄さんがリングをつくっていますが、真ん中のところも私がやることになりました。この自由に並んだ四角いフレームは高さ二〇メートルあります。「魚のドロメがあっちこっち向いている」というような言い方もできますが、「伊東さんの都市の純潔を守る避妊リングに殺到する精子」というと非常にひんしゅくを買います。

さて、環境の話に戻りますが、日本の庭園の中には人間がつくるのであるが、そこにまったく手の痕跡を残していないところがあり、それはすごいと思います。地球開発のモデルになり得ます。真っすぐ立っているように見えるスギ林にしても、実はその一本一本はどれも真っすぐではない。これが現実におけるトポロジーです。そのものが環境との整合性を持っていることが、二十一世紀に有効な見方になるであろうし、そういうものはどこかで勉強しなくても、私たちの遺伝子DNAの中にすでに組み込まれた記憶の中にあるわけです。それをもう一度、世の中に表現することが二十一世紀の建築の課題であると考えています。それが「自己変革」の内容です。

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