アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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西澤立衛 - 自作について
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2005 東西アスファルト事業協同組合講演会

自作について

西澤立衛RYUEI NISHIZAWA


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金沢21世紀美術館
南西側全景
南西側全景

2004年10月に開館した美術館で、現代美術を中心に伝統工芸まで幅広く扱う現代美術館と、市民のための無料公共プログラムが集まった交流館、このふたつのコンプレックスです。交流館は、地域の人が無料で使える施設、たとえば図書館、子どもワークショップ、オーディトリアム、カフェ、市民ギャラリーなどの施設です。

場所は金沢市の中心地、もともと学校と幼椎園が建っていた場所で、隣りには市役所が、向かいには県庁が、斜め前には兼六園があります。自然公園の中や郊外ではなく、市の中心に建てることで、コンペの段階から開かれた美術館ということが求められました。また同時に、交流館という市民のための施設を美術館に併設させるというプログラムを持ち、より人びとが気軽にアプローチできることも望まれました。

西側より俯瞰する 奥は兼六園
西側より俯瞰する 奥は兼六園

コンペの段階では美術館と交流館を別々に建てるというプログラムでしたが、私たちはそれを合体させて建てることを提案しました。別々に建ててしまうと、交流館に来た人は美術館に行かないのではないかと思い、合体させることで両プログラムの交流が起こるのではないかと考えたのです。三面道路の敷地だったこともあり、建物をひとつに、しかも円形にして、五カ所の異なる方向に開く玄関をつくれば、裏側のない、どこから入っても開放的なつくりになると考えました。

金沢21世紀美術館 平面図
金沢21世紀美術館 平面図

有料の美術ゾーンを円形の真ん中に配して、無料の交流部分を外周部分に配しました。そうすると、人がどこから来てもお金を払わずに中に入り、通り抜けることができます。また、もともと学校だったこともあって、敷地内には記念樹がたくさんありましたから、それを捨てずに移動して庭に離して置くことを提案しました。ギュウギュウ詰めに植えて雑木林にするのではなく、彫刻のように独立して配置することを考えました。美術館に来る時、人びとは、まず記念樹でつくられたこの庭を通り抜けてから美術館に入ることになります。

プランでは展示室を離して配置することを提案しました。展示室と展示室がくっついていると、展示を見て歩く際に展示室だけを巡っていくことになります。でも展示室というのは閉鎖的な空間なので、あまりくっつけ過ぎると、外から見た時に中で何が起こっているか分からなくなってしまいます。それを避けるように展示室を離して配することを考えました。

四角い空間のひとつひとつが展示室あるいは中庭です。展示室から展示室に移動する時に動線空間に出る、もしくは無料ゾーンが見えるようにしています。外周の交流ゾーンや図書室からも、空間と空間の隙間を通して美術館の中が何となく感じられる開放的な美術館を実現したいと、展示室を離すことを考えました。基本的に展示室は平屋です。キュレーター側からの要望で、展示室の天井高を4.5メートル、6メートル、9メートル、12メートルといろいろな高さにしています。俯瞰して見ると部屋の高さがそのまま外形に表れて、円形の低い建物から展示室が突出しているように見えますが、すべてが平屋で、展示室が離れて置かれているのがよく分かると思います。ぎゆっと固めてしまうのではなく、離して置くことで開放性をつくり出そうとしています。

北西側ホワイエを見る
北西側ホワイエを見る

展示室を離して配置したのには、フレキシビリティの問題もあります。展示には、600平方メートルぐらいが適している小さい展示から、2000平方メートルくらいが必要な大きい展示まで、規模の大小があります。そこで僕らは、小さい展覧会の場合は二、三室だけを使い、ほかのエリアを無料ゾーンに開放するということを考えました。そうすると普段は入ることのできない中心部分も横切ることができるようになるわけです。開館記念展の時は展示室すべてを使ったために、有料のゾーンが最大になり、無料ゾーンは外周だけになりました。展覧会の規模に応じて美術館の大きさが変わり、それによって無料ゾーンの部分も変わっていくのです。複数の展覧会を同時に開催することもできるので、ある意味では街のようです。

展示室内観
展示室内観

いちばん大きい展示室は18メートル角、天井高12メートルで、あまりないような巨大な展示室です。各展示室は天窓採光としています。天井も屋根もガラスのダブルレイヤーで光を調整して入れています。ガラスの天井とガラスの屋根の間にメンテナンス空間があって、そこに調光のためのルーバーが入っているのです。それを最大限に開けると非常に明るい屋外のような空間になりますが、現代美術の中には暗室でないとダメなものがあったり、伝統工芸でも暗くしないといけない場合もありますので、異なる光の条件に対応するためのルーバーです。

展示室の大きさに合わせて建物全体の高さを決めると非常に大きなボリュームになってしまうので、高さが必要な展示室のボリュームはなるべく奥に配置して、外周部は低くして、圧迫感のない形をつくろうとしています。交流ゾーンの天井高を低くして、人間の体に合った大きさにしています。ただ、奥の深い空間なので、中庭をいくつかつくって光を室内に持ち込んでいます。中庭は基本的には有料ゾーンと無料ゾーンの境界に配置しています。それによって中庭を介して交流ゾーンと美術ゾーンがお互いの雰囲気を感じられるようになっています。中庭はただの光庭ではなく、屋外展示室でもあります。ホワイエから美術ゾーンを見たり、記念樹が植えられている庭を見たりすることができます。

休憩コーナーより光庭3を見る
休憩コーナーより光庭3を見る
ホワイエより光庭1を見る
ホワイエより光庭1を見る

開館記念展で、無料ゾーンのいちばん奥のホワイエに作品をつくったアーティストがいます。箱の中の展示が好きなアーティストがいたり、積極的に社会的な場所に出ていきたいと思うアーティストがいたりします。

円形の平面は直径100メートルを超える大きさでありながら、建物の端から端まで貫通するような透過性があります。開放的な廊下を何本も通すことで、建物の奥にいても自分のいる場所が何となく分かるような空間を考えました。大きさの異なる展示室がばらばらに並んでいるので分かりづらい平面ですが、何度も通ううちに建物の構成が分かっていきます。初めて訪れる街と同じで、最初に行った時は全然分からないけど、何度も行くうちに構造が分かっていくような感じです。ただ複雑でありながらも透明性を与えることで、なるべく分かりやすく開放的な関係性をつくり出そうと試みました。

建物は緩やかにカーブした透明ガラスで囲われています。建物の中の活動が建物内だけに閉ざされるのでなく、庭や路上にいる人たちからも何となく感じられるようにと考えました。せっかく起きている建物の中の活動をなるべく都市に広げて、周りの雰囲気に連続させていこうという考えです。

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