アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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槇 文彦 - 建築空間と物質性について
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東西アスファルト事業協同組合講演会

建築空間と物質性について

槇 文彦FUMIHIKO MAKI


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物質がつくり出す新しい感性
槇自邸
槇自邸

私自身も、「豊田講堂」「立正大学」と、一九六○年代はずいぶんコンクリートを使いました。しかし打放しのコンクリートは、よほどいい施工をしないと、また環境に恵まれないと都市の汚染された空気や雨水にさらされることによってどうしても耐候性に欠けるところが出てきます。そういうことで、いまから七ゝ八年前につくりました二つの建物では、少し表面を保護したコンクリートにしております。どちらもホンザネの型枠を使っておりますが、外にエマルジョン系の塗料を吹き付けて、拭き取り仕上げをすることによって、十分に打放しコンクリートの質を残しながら、なおかつかなり耐候性のあるものにすることができます。

岩崎美術館
岩崎美術館

ひとつは私の自宅なんですが、実験的にエマルジョン系のものを吹き付けたところと、何も吹き付けないところと二つつくりまして、その後の経過でどのぐらい汚れが違うか調べてみましたら、やはり全然違うんですね。とはいっても、八年目にもう一遍この部分を少し吹き直しております。

もうひとつは鹿児鳥の南端・指宿にある「岩崎美術館」です。ここは空気が汚れていないせいか、潮風が強いところであるにもかかわらず、コンクリートはかなりいい状態で保たれております。ここで使われていますコンクリートは、土木で使うコンクリートのように男性的でなく、かなり女性的というか、少しやさしい表現になっています。ここではスチールのクロスを象徴的に使っているのですが、こういうような形態と、打放しコンクリートの間のある種のアンサンブルを、意図しております。ですから鉄とコンクリートという、次第に複含した要素の発信するメッセージの組み合わせといいますか、そういうものに対して興味が現れ始めた建物です。

慶應義塾日吉図書館/階段室
慶應義塾日吉図書館/階段室

先年日吉につくりました「慶応義塾日吉図書館」の中の階段室です。私は非常に階段に興味を持っています。階段は上と下との空間をつなげていく媒体であり、形態的にも千変万化の可能性を持っております。ここでは階段室により中世的な雰囲気を与えたいので手すりには素朴にコンクリートを使い、同時に手すりの変わっていくところはコーナーの頭が尖ったかたちにしてあり、中世的なイメージを増幅させようとしています。岩崎美術館とはまた違ったコンクリートの持っている物質性を何とか発掘できないかという試みがありました。上から天空光がちょっと入ってきて、それなりのひとつのステートメントを持っているわけです。

アアルトを見てもコルビュジエを見ても、ディテールに関してはかなり初期に完成しています。コルビュジエの階段などはどちらかというと、皆さんもご存じのように平板の鉄にペンキを塗って、きわめて素朴なものが多いのですが、私はどちらかというと想定した場面に応じて材料を選び、形態を選ぴ、そこからまた情景を組み立てていこうというアプローチをしています。したがって、その都度違った形態、ディテールを持った階段室がつくられていきます。

三菱銀行広尾支店
三菱銀行広尾支店

もうひとつ別な材料で最近よく使ってきました、銀色のタイルがあります。これも最初は、坂倉事務所が東京の「パシフィックホテル」でパール系のものを使われました。それから銀だけ抜いたものを、谷口吉生さんが資生堂の「アートハウス」をやられたときに使っております。非常に現代的な感じのする材料ということで、私は「三菱銀行広尾支店」で使いました。幾何学的なかたちを出していくときに、甘くならないんですね。この塔屋の部分は桶のように円の一部によって構成されているのですが、エッジからの反射が、円弧の感じを非常にシャープに出しています。初めはアルミでやろうと思っていたのですが、アルミが非常に高くて手が出なくてシルバータイルに変えました。

このタイルは最近いろいろなところに出てくるので、われわれは「もう使わない」といっているのですが、最初出てきたころはそれなりのある新鮮さを持っていました。もちろん、いまでも使い方によっては非常に新鮮に使えると思います。たとえば木とか石、煉瓦というのは何百年たっても、われわれが繰り返しチャレンジできるものなんですが、場合によっては工業製品というのは、どこかに一過性の運命を持っていて、何か出てきたときに非常に新鮮に使ってデモンストレートできれば、役目が終わったという感じがしないでもありません。

YKKゲストハウス
YKKゲストハウス

「YKKゲストハウス」の外壁のタイルです。銀色ではなくて白いタイルです。電信柱も何もない、田園と木だけに囲まれた環境の中で、建築自体の持っている象徴性を非常に強く出したい。そういうときには耐候性があって、なおかつ形態を曖昧にさせないためには、タイルでも白糸のタイルがいいんですね。それに幾何学性を重要視しますときには、ウマで継ぐ方がタイル屋さんは喜ぶのですが、どうしてもイモに継ぎます。しかも目地幅も、普通ですと一○ミリぐらい欲しいというのですが、それじゃ全然感じが出ないので八ミリとか六ミリとか極限を要求していくわけですね。タイル屋さんは「勘弁してくれ」というのですが…

慶應義塾三田図書館/閲覧室
慶應義塾三田図書館/閲覧室

もうひとつ大事なことは、目地のモルタルの色ですね。石の建物の場合でも同じなんですが、京都の近代美術館をやりましたときにも、何種類か、目地のモルタルの色をサンプルにつくりまして、現場でなくて工場の方でそれを石と石との間に注入してみて決めていきました。そこで最終的な印象には随分相違が出てくるんですね。つまりタイルでありながら面として見せたいというときには、目地幅とかモルタルの色が決定的な役割を果たしてくるのではないかと思います。

在日デンマーク大使館
在日デンマーク大使館

一転しまして、これは同じタイルでもむしろ暖色系で、よりやわらかい空間をつくりたいというときに使われている色であり、手法でもあります。「慶応義塾三田図書館」と「デンマーク大使館」です。両方とも同じ時期に前後してできておりますが、空間としていちばんアンサンブルがいいのは、暖色系のタイルには暖色系の材料です。内部の仕上げはナラ材で組まれている木の格子です。それから奥にあります机、椅子も、エンドウプランニングと一緒に協力してつくった家具です。それから床もじゆうたんとか、石もトラバーチンを使っております。

したがって、ここら辺でおおよそ見ておわかりのように、そうした材料同士がひとつのアンサンブルをつくる。この中で白のマーブルなんか出すと違和感があるんですね。それからデンマーク大使館も、木枠が室内に使われておりまして、障子がらみの部分もあり、ここでもサロンとしての落着きが重要視されています。

YKKゲストハウス /階段室
YKKゲストハウス /階段室

再ぴガラスブロックなんですが、今度は内側から見たガラスブロックでして、YKKゲストハウスの二階の図書館へ行くところの階段室です。階段は螺旋状でここら辺の細い手すりはダイカーの手すりを思わせるようなディテールになっていますし、またガラスブロックは弗酸で処理してあって表面の白光性を強めています。普通のガラスブロックはちょっと青みがかっているので、私たちは、できるだけ白い色の感じを強めたということで、ちょっとお金がかかるのですが、この方法を使う場合が多いのです。

もうひとつは慶応の日吉の図書館の中の十字路です。ここではPタイルを市松に二色で使うことによりグラフィックな感じを強くしています。それから閲覧室の照明器具とか、椅子ですが、大体こういう場所では黒とか濃いエンジとか、そういう強い色を使っています。しかしガラスブロックを使うという発想から、あくまで空間をリードしているのはガラスブロックで、ほかのマテリアリティは何となしに決まってくるわけです。

慶應義塾日吉図書館/十字路
慶應義塾日吉図書館/十字路

私はそのほかに、これは日本的な感性かもしれませんが、見え隠れしているような状態、スクリーンといっていいんですが、スーラの絵ではないんですが、ちょっと向こうの風景がぼけてみえるようなすだれとかスクリーンとかいうものが非常に好きなんです。

自宅の階段室です。ステンレスの、ちょうどミースが使うような最も単純な階段の表現をとっております。YKKゲストハウスの階段室では、ファイバーグラスを、ガラスの片面に接着しスクリーンとしました。京都の近代美術館のコーナーの階段室の前身であります。

槇自邸/階段室
槇自邸/階段室

私は最近スカイライン、つまり建物が空に面するところの表現は非常に大事じやないかと考えています。もちろん旧い木造建築においても古来から瓦屋根とか葺き屋根とかいろいろなかたちで空に対して発言してきましたが、近代建築の登場とともにだんだんフラットルーフになって機械室が上に乗るようになり、空に対する関係に建築家が無頓着になり過ぎているのではないでしょうか。実はここは、逆にいうとおもしろいところなんですね。機械さえうまく囲ってやれば、ほかは何をしてもいいという空間です。これがオフィスの窓などになりますと、そんな勝手なことはできません。三角の窓をつくることはできません。スカイラインというのは現代の建築でまだ残されている最も自由な領域ではないでしょうか。

慶應義塾日吉図書館/屋上
慶應義塾日吉図書館/屋上

慶応の日吉の図書館の屋根ですが、これがスカイライトですね。中にキュービックがあって、下に光が落ちてくる。煙突、避雷針、それにまつわって階段室があって、グリーンの色に赤い枠組み、これなんかはだれも上がらないところなんですが、遠望したときに建築が示してくれるひとつのスカイラインを構成している重要な部分なんで、こういうところをきちっとつくることに関心を持っています。その結果として集合としての都市の様相が、だいぶおもしろく見えてくるのじやないかと思います。ですから、最後の機械室とか屋上への出入り口あるいは突出物は、できるだけ愛情をこめてといいますか、関心を持ってやることが大事ですね。この部分は施主も何もいわないところだと思うんで、知らないうちにやっておけばいいんです。しかし屋根だけは、デザインはまずくても間題にされませんが、雨漏りだけは施主は許してくれません。

京都国立近代美術館/屋上
京都国立近代美術館/屋上

京都の国立近代美術館のルーフの納まりですが、待殊なアルミの引抜き材を使ってきちっと仕上げてありますので、もし何かの機会に、知っておられる方があって「屋根を見せてくれる」というときには、ぜひこれを見てください。


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