アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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原 広司 - 「集落の教え」と様相論
初期の住宅作品と集落の関連
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東西アスファルト事業協同組合講演会

「集落の教え」と様相論

原 広司HIROSHI HARA


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初期の住宅作品と集落の関連

ここからは、私の設計した建物と、集落の写真を並べて説明していきます。まず、私の自邸です。これは集落調査を開始したころにつくった作品ですから、集落の持ついろいろな特性はまだ知らなかった時期に設計しています。住居に都市を埋蔵するというキャッチフレーズを思いついた作品です。家の中に家をつくったものです。

アフリカのコンパウンドの内と外アフリカのコンパウンドの内と外
アフリカのコンパウンドの内と外

こちらは、アフリカのコンパウンドの例です。コンパウンドの場合は、もっと多くの家族が集まって住んでいます。ひとつの壁なり囲いの中に小さな住居や穀倉などがあって、大変複雑な配置もあり、これがひとつの村だともいえる形でできています。家の中の家とか家の中の都市といった概念がここにもあるように思います。

私の自邸とコンパウンドを比較する必要もないのですが、原理からいうと、壁があって屋根がちょこっと出ている。その大きな囲いの中に家が入っているというつくり方は両者相通じるものがあるといえます。自分で設計して建物をつくるから、そうした面がよく見えてくるということがあると思いますが、すべてのものにすべてがあるというのは、ギリシャのずっと古くからある考え方です。ギリシャ時代のアナフサゴラスという人がいっていますし、最近ではライプニッツが近代を説明するために使った考え方でもあります。そういう意味からすると、歴史そのものの枠組みの中に納まっているということで、別に新しいことではありません。ただ解釈の仕方の問題で、新しい解釈ということだと思います。

粟津邸
粟津邸

次は、粟津邸です。これは私の自邸より以前の作品です。集落調査の最初の時期に現場をやっていた作品です。ここでは屋根上に換気筒がずらりと建ち並んでいます。

こちらは、スペインのクエバスという、地下というか横穴生活の集落です。くりぬいた地下の住居の上にそれぞれ換気筒が立っています。粟津邸は、スペインに行く前に設計した作品ですが、同じようなことを考えていたんだなあと思いました。というか、自分のやっていることがどういうことであるかというのが、集落を見てよくわかったという記憶があります。

クエバス(スペイン)
クエバス(スペイン)

次は、やはり同じころにつくりましたニラム邸です。ここでは、粟津邸、自邸からずっといっている空気の設計、つまり光の質とか空気を設計するというか、建物には独自の空気があって、それはその場所が持っている空気そのものと同じですが、その場所の持つ空気を設計することが建築を設計することであるということです。その辺が様相論そのものに通じていくのではないかと考えます。


ニラム邸
ニラム邸
山下公園
山下公園
山下公園
山下公園

サバンナ集落の住居内部
サバンナ集落の住居内部
サバンナ集落内部のトップライト
サバンナ集落内部のトップライト
北川邸
北川邸
コロンビアの水上集落
コロンビアの水上集落

こちらは、アフリカのサバンナの集落の住居の内部です。見えているのがここでの生活の財産のすべてです。ところがよく見ますと、まるで日本の民家を見ているような感じがあります。非常に日本的なんです。アフリカはきわめてアフリカ的というか、原色の世界、プリミティフな世界なんですが、この住居の内部ほど日本的なものは見たことがありませんでした。その光の入り方が大変日本的だったわけです。

たとえばサバンナの壺が並んだような集落の住居の内部を見ますと、壁がぐるりととり巻いていて外側からはなにもわからないのですが、中に入るとトップライトが開いています。トップライトといっても、それほど立派なものでなく、ただ穴が開いているだけのものですが、そこから光が射し込んできて独特のムードをつくっているわけです。その雰囲気が、私に非常になつかしいという感覚を引き起こしたということです。この部族は、サバンナの中でも待異な部族で、いろいろな部族が棲み分けている境界に住んでいます。したがって周囲の部族の真似が得意なんです。そうして混乱を呈しているともいえる部族なんですが、そうした部族なのに、これだけは彼ら独自のボキャブラリーだといえるのが、このトップライトなんです。トップライトをつくるなんていうのは、周辺の部族のどの集落にもないんです。彼らだけが、トップライトを使って空気の変質化を図っていました。

次は、最近の作品ですが、小さな家で北川邸です。新潟県の高田にあります。ここは日本でも有数の豪雪地帯で、雪が降ったり、融けたりということに合わせて家が呼吸するようになっています。つまり家の高さが上がったり下がったりしています。

こちらは、南米コロンビアの集落です。水上集落ですが、私はこの北川邸を設計するときに、この集落を思い浮かべていました。というのは、コロンビアの集落も、いろいろに水位が変わっても大丈夫にできているわけです。この種の集落は世界中いたるところにあるのかというと、決してそうではありません。見つけるのが実にむずかしいのです。西アフリカにひとつあるということで、何度も探してみましたが、どうしても見つかりませんでした。水上生活というのはありそうでなかなかありません。コロンビアの場合は、猛獣やばい菌などから身を守るために海の上に住んでいます。動く床というか、変位する床面に対応した住居のつくり方だと思います。

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