アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
妹島これは私個人の仕事で、去年の暮れ、東京の郊外にできあがった小さな住宅です。これまで数は少ないのですが、いくつかの住宅をつくってきました。そのたびに感じていたことは、日本の都市住宅ではモノの量と家の大きさとがなかなかうまくいかないということです。規模が限定されるため、きれいに住もうと思うと、モノをもたないか、もっても収納スぺ−スに隠してしまうしかありません。しかし、そうではなく、いろいろなものを家族でもちながら、それを隠さずに見せて、それが汚く見えず、しかもモノがあることを楽しみながら暮らせるという住宅は考えられないかと思っていました。
そのことから、ここでは小さな部屋をたくさんつくろうと考えました。つまり、大きな家であればモノが散らばっていてもそれなりに楽しいと思うのですが、小さいなかに許容以上のモノがあると、なかなか楽しく見えてこないという現実があると思います。それも家族ですから、いろいろな趣味のものがあります。お父さんが選んだものと小学生の女の子が選んだものが一緒に混ざっていては雑然と見えるのは当然です。そうではなく、それらを家全体にうまく振り分けられたらいいのではないかということです。
家族はおばあさんと若いカップルと子どもふたりの5人です。27〜8坪の家ですので、そこになるべく大きなダイニングリビングを取ろうとすると10畳ないし12畳の空間ができますが、そこにみんなのモノを雑然と集めたくはなかったのです。ベッドルームにいるか、ダイニングリビングにいるか、そのどちらかの選択しかないというのもどうかと思いました。ここでは小さいながらもたくさんのパブリックな場所、つまり、いようと思えばいられる場所をつくりました。子ども部屋も、ベッドのための部屋と机のための部屋とをつくりました。
最初に敷地を見たときに梅がとてもきれいに咲いていて、クライアントがぜひこの梅は残したいとおっしゃいました。私たちも同感で、クライアントだけではなくて、近所の人たちも毎春この梅の花を楽しんでいるということで、小さい土地の中からさらに少しセットバックして、梅をできるだけ残そうということから外形を決めました。ひとつひとつの部屋があまりに小さいので、普通の構造でつくるということはあり得ないだろうということから、スチールのプレートでつくろうということになりました。もともと家族全員がつながった部屋で暮らしたいという希望だったので、鉄板をただつなぎ合わせて、そこに穴を開けて窓にしたり、部屋に入る入口にしています。ひとつの部屋にいても、いろいろな窓を通して外が見えたり別の部屋が見えたりという具合になっています。外壁には小さな窓がたくさん開いていますが、それがそれぞれの部屋の窓になっています。
二階の子どもの机のある部屋のいっぽうは、一階のベッドのための部屋の吹抜けにつながっており、もう一方は二階のベッドの部屋とつながっていて、その向こう側にはダイニングの吹抜けがあり、さらにその吹抜け越しに外の梅の木が見えるというように、ひとつひとつの場所は独立してあるのですが連続しています。また。壁に奥行きがないため、隣の部屋が絵みたいなかたちで表れてきます。私としては薄さということを美学的な問題というよりは関係性の問題ととらえています。従来の隣の部屋というものとは違った気分を味わいながら生活できたらよいのではないかと思っています。外壁部については断熱をして厚さ50ミリくらいにしてますが、中はスチールのプレートをカットしているだけです。
五人家族だと四つベッドルームをつくつて、余裕があれば応接間やゲストルームとして和室をつくる、というのが一般的なのでしょうが、人の数と部屋の数ということについて、それとは別の発想ができるのではないかと思っています。屋上にはテラスがあります。もともとあった土を戻したいということで、掘った土をこのテラスと屋上に戻して」芝生を植えています。