アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「Tree-ness House」北東側から見る
「Tree-ness House(2017年)」は、東京の大塚に設計した、住宅とその下にギャラリーが入る5階建ての複合ビルです。実は、先ほどご説明した「Taipei Complex」と同じような考え方で計画しています。1本の樹には、幹や枝、葉っぱ等の互いに異なる部分が有機的に共存していますが、その1本の樹のようにそれぞれ違うものが組み合わさって1個のものができ上がるということを初めて実現できたプロジェクトでした。コンクリートのボックスを積んで大きな構造体をつくり、そこにひだのような窓を開け、その周りに植物を絡ませています。ひとつのシステムだけでは実現できない、1本の樹木が空中に現出させる領域のように、内外の境界があいまいな非常に有機的な空間、建物と一緒に上空まで展開する3次元的な庭のようなものをつくろうとしました。下部は鉄筋コンクリート造のボックスの壁がそびえる単純な岩山のようになっていて、エントランスへ入ると、手前にオフィス、奥に現代美術のギャラリーがあります。2階へ上ると、もうひとつ別のアートセンターになっていて、奥には小さな住宅があり、3階にはお施主さんの住戸があります。そのさらに上部は住宅で構成されており、真ん中には雨や雪がそのまま降り込んでくるような大きなボイドが通っています。上階へ上がっていけばいくほど全体のボリュームがセットバックしていき、そこへ緑が巻き込まれていくような構造になっています。ひだ状の開口部分には、保水性の高い軽量土壌をたっぷり入れられるプランターを内包しており、そこに植物を植えて基本的には雨水だけで維持できるようにしています。全部で17個の異なる形状のひだがあり、それぞれは場所ごとに最適な形として計画されていて、部分的に階段を内包して上部へ上れるようになっています。住宅部分の外側には常に植物が見えていて、庭と内部空間が混ざり合うような中で過ごせます。敷地周辺はこぢんまりとした小さな家が建ち並ぶ地域で、その中に大きなボリュームの建築が建っているのですが、ボックスの集合で全体が構成されていて、ひだがたくさんあるので周辺のスケールにもなんとなく馴染んで見えると思います。また、周辺の地形は結構な起伏があり、本プロジェクトの屋上からもその地形を感じられるのですが、その地形のひだが建物に吸い込まれて、建物にもムクムクと大きなひだが取り巻いているように感じられるランドスケープをつくりました。
「Tree-ness House」北西側よりファサードを見る。 奥はギャラリー
「Tree-ness House」ひだ部分のプランターと内包された階段
「Tree-ness House」17種類のひだ詳細
このプロジェクトは、2011年3月11日に発生した東日本大震災以前に計画がスタートしたのですが、途中、震災の影響で一度プロジェクトがストップして、震災後に再開したという経緯があります。プロジェクトが通常よりも長いスパンで実現したことで、改めて竣工した建築を見て「こういうこともあり得るかもしれない」と、さまざまな発見もありました。例えば、工場でカットして溶接し組み立てられた厚さ9ミリの鉄板からすべてのひだの型枠をつくり、それを現場に運び、無収縮モルタルを現場で打設してひだをつくったのですが、これは震災前から計画していた構造と施工方法で、もし震災後のモードで考えていたらもう少し簡便な方法をとっていたかもしれません。しかし、今改めて見ていると逆に新鮮に思えたりもしています。
「Tree-ness House」ひだの型枠を組み立てる様子
「Tree-ness House」型枠は現場でコンクリートと一体化させる
「Tree-ness House」3階リビングからテラスを見る。壁と床は本革張り
「Tree-ness House」ダイニングからボイド空間を見下ろす
「Tree-ness House」4階主寝室。窓からはひだに植えられた植物が見える
「Tree-ness House」断面パース
「Tree-ness House」5階平面
「Tree-ness House」4階平面
「Tree-ness House」3階平面
「Tree-ness House」2階平面
「Tree-ness House」1階平面