アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ものづくりのできる環境はもとから用意されているわけではありません。自分の設計環境、居場所、仲間、顧客は自らがつくり出していくものです。この章ではどのようにプロジェクトを進め、チームとコミュニケーションをとってきたのかを紹介します。
ここ6、7年の間、私は東京、名古屋、大阪のチームとそれぞれ組んで、多くのホテルを設計してきました。ホテルは立地が非常に重要です。周辺環境と対話しその場所らしさをどう建築で表現したのかについて、ご覧いただきたいと思います。東京・銀座八丁目にできた「ホテル・ザ・セレスティン銀座」(2017年)は、地下にもともとあった構造物を再利用し、その内側を入れ子状にして設計する必要がありました。そのため免震構造を採用して心柱をコアのように立ち上げ、外周には細い柱を配置したキャンティレバー主体のホテルを計画しました。外壁には梁ではなく薄いスラブが見えています。「三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア」(2019年)は岡田さんに設計チームを率いていただきましたね。国立競技場の北側にあり、都心ながらとても緑の多いスポットです。競技場の楕円形の形状と呼応するように建物形状全体を凹面にし、バルコニーには木を多く用いました。阪急の「宝塚ホテル」(2020年)は、西側に宝塚駅、東側に宝塚大劇場があり、それらを結ぶファンたちの参道沿いに建てられたホテルです。いずれのホテルも、一貫した設計ポリシーというのはありません。ただ常に、ホテルが建つことで周辺環境の価値も向上するような設計を心がけています。それぞれの立地に一番ふさわしく、周囲と馴染み、それでいて日建設計の仕事だと分かっていただけるように努めました。「W大阪」(2020年)は大阪府大阪市の御堂筋に建つホテルで、ファサード全体が黒いガラスの建物です。大きな門型がエントランスであり、ホテルであることの目印になっています。
右:「ホテル・ザ・セレスティン銀座」外観
左:断面とコア
「宝塚ホテル」外観。手前は武庫川
「三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア」と「国立競技場」
——岡田 わずか数年の間に数多くのホテルを設計されたことが分かります。しかもそれぞれのホテルで、多様なデザインが採用されています。ひとりのリーダーがこれらの設計に携わったとはとても思えないほどです。大谷さんは、チームごとに合わせた設計マネジメントを行っていると思いますが、どのように彼らのポテンシャルを引き出していますか。
時間を費やし日々議論しながら設計を進めているのは、それぞれの担当チームの面々です。私との定例会では、彼らが緊張した面持ちで話していることが雰囲気から伝わってきます。プロジェクトについて懸命に向き合っていることは分かりますし、実際に手を動かし形を与えているのは彼らです。私が統括の立場で心がけていることといえば、チームにある種の電気ショックを与え、その反応と結末をきちんと見届けることです。
オリンピック前の数年間は特にホテル需要が旺盛で、日建設計にも多くのクライアントから仕事をご依頼いただきました。結果的にホテルブランドの個性豊かなホテル群を設計させていただきました。あまりに短期間に設計が集中したため複数のチームを同時に編成して進める体制となりました。それがかえって功を奏したのか、さまざまなデザイン言語も抵抗感なく取り入れることができたのだと思います。
——岡田 大谷さんご自身としては、自分らしさを設計に込めたいという気持ちはありますか。
まったくそうした思いはありませんね。建築は日々の打ち合わせから立ち上がってくるものです。あまり特別なことをしようとは考えていませんし、さまざまな仕事が同時に進むためにそのような思いにも至りません。
御堂筋沿いに建つ「W大阪」外観
車寄せと照明デザイン