アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
次はハンガリーで設計したプロジェクトをご紹介します。ハンガリーは伝統音楽から現代音楽に至るまで、ウィーンと同じくらいの音楽の都のひとつです。音楽学校も多数あり、日本からの留学生も多くいます。ハンガリーの首都ブダペストの街の中心部に、ヴァロシュリゲットという公園があります。その中央に音楽博物館、大小の音楽ホール、音楽教育施設を複合した建物「House of Music(2021年)」をつくりました。ヴァロシュリゲットは人工的につくられた公園でありながら現在は樹木が生い茂る美しい森のようで、その中央を敷地として、2014年に国際コンペが開催されました。最初は森の中で音楽を演奏して音楽を聴くこと以上に素晴らしいことがあるだろうかと思い、スケッチを描きました。ただこれだけでは建築の提案にならないので、ダイレクトですが、木立がある樹冠を屋根のボリュームに置き換えて、1階部分はガラスで森に開かれている透明な空間にして、そこに音楽ホールをつくろうということを考えました。博物館は天井高が必要で、基本的にブラックボックスを要望されていたので、地下に置くことにしました。かなり大きいボリュームなので、地上に置くと森がすべて破壊されてしまうという理由もありました。音楽教育のためのスペースと管理部門は2階部分に入っています。地上1階部分にはロビーと大小の音楽ホールを置き、すべて透明で森に開かれている場所をつくる提案をしました。最終的には巨大なキノコのように穴が開いている形になりました。トップライトとしている箇所もありますが、元もと木が植わっていた場所に実際に穴を開けているところもあります。工事中は木を保護して建物を周りにつくり、木がその穴から伸びていけるようにしています。そういう意味では建築と自然が重なり合っているような建物のつくり方をしました。
公園の中を歩いていくとまずは森の中を通ります。だんだんと建物の屋根に入り、屋根の下に入ると、葉っぱを模した幾何学的なパターンの金色の天井が現れて、エントランスの前に深いキャノピーをつくっています。まだ公園の続きで木が植わっているので、キャノピーの天井に穴を抜け、そこから木々が上に伸びています。ところどころ柱が立っていますが、木とあまり区別がつかないような立ち方をしていて、天井の穴からは光が差し、そこからその先の内部空間に入っていくつくりとなっています。音楽ホールの壁は、音響効果のため屏風状にガタガタしている二重のガラスの壁で囲まれています。日本の永田音響という音響エンジニアリング事務所に音響設計をしていただきました。ガラスでつくられていますが、豊かで深く暖かな響きがあります。またホール外部のビアガーデンのスペースには屋外座席を設けて、毎晩屋外コンサートを開催しています。僕も何回か参加しましたが、最初のスケッチに描いた森の中で音楽を演奏してそれを聞く体験が文字通りでき上がった場所にもなっています。公園を軽視して建物をつくるのではなく、公園も魅力的に見せながら同時に建物を差し込んでいくようなつくり方をしています。
「House of Music」木立のある樹冠を屋根のボリュームに置き換えるイメージ
南側俯瞰
屋根は直径約80m
設計する際に大変気を遣ったところが天井です。コンペの時は周りの森が映り込むように天井を鏡にしようという話をしていました。しかし、地面やペイブメントが映り込んでしまうと、ケバケバしくなりそうだということになりました。またホールの性格上、天井を完全に鏡面にすると音が反射して鳴りすぎてしまいます。どうしようかと悩んでいた時に、クライアントが現地の歴史的なミュージックアカデミーであるリスト音楽院に連れていってくれました。メインのオーディトリアムに入ると、内装が全面金色でした。それがケバケバしい金色ではなく品のある金色で、よく見ると浮き彫りのような木の葉の彫刻が施されていてかっこいいなと思いました。同時に自分も森の中に溶け込むということを考えていたので、木の葉模様の金色の天井はどうだろうかと考えました。また改めてプロジェクトを振り返ってみると、周りの木の葉は季節によって色が変わるので、どの季節にも調和しさらにその場所が引き立つような色は何かと思った時に、金色だと思いました。春夏の黄緑や深緑色の葉にも合いそうで、秋は金色の天井と紅葉した葉が溶け合って綺麗になりそうです。冬は葉が落ちて周りは茶色やグレーのほぼ色のない世界になりますが、鏡にするとただの茶色い世界を写し取るだけですが、淡い金色であれば色のない世界でもこの音楽ホールに行こうという目的地としての存在になり得ると思い、金色を提案しました。ただ、どんな金色にするかは大きな問題なので、あらゆる金色のアルミのサンプルを集めて、工場で木の葉のパターンに切り出して、組み合わせたモックアップを確認する工程を何回か繰り返しました。最終的に3種類の金色のアルミ板を組み合わせて使っています。よく見ると3種類のわずかな反射率、反射の仕方、濃さの違いが分かると思います。さらに屋根が曲面で角度が徐々に変わっているので、反射の違いが相まっても3種類が変な見え方をしないように選びました。今まで金色を使ったことが1回もなかったので、相当勇気がいりましたが、最終的にはものすごく成功したと思っています。
ロビーから外を見るとガラスの向こうにグリーンがあり、天井のアルミを通して森の木の葉が建築に連続しているような印象が生まれます。アルミ板なので反射も映り込みもあり、金色もあり、自然なかたちで外に溶けていくように見えます。森と建築が重なり合いながら溶け合って、アルミという人工の素材がそれを媒介して、結果として非常に美しい調和をつくり出すことができました。
エントランス前のキャノピー
室内外に連続する天井は、約3万枚の金色のアルミパネルで覆われる
2階バルコニーから1階イベントホールを見る
音響効果のため、壁のガラスは屏風状にジグザグに配置
また、カーテンの設置と天井内部に吸音材の直張りを行った
屋根下の屋外ステージ
2階平面
中2階平面
1階平面
地下2階平面
断面