アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

トップ
私の建築手法
藤本 壮介 - Between Nature and Architecture
Co-Innovation University(仮称)/飛騨古川駅東開発プロジェクト
2023
2022
2021
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986

2023 東西アスファルト事業協同組合講演会

Between Nature and Architecture

藤本 壮介SOUSUKE FUJIMOTO


«前のページへ最初のページへ次のページへ»
Co-Innovation University(仮称)/飛騨古川駅東開発プロジェクト

数年前に岐阜県の山あいの飛騨に大学をつくるという話が持ち上がってきました。地元の若い方が昔から大学をつくりたいという夢を持っていて、学長候補としてデータサイエンティストの宮田裕章さんを指名しました。僕は宮田さんとは「2025年大阪・関西万博」のプロデューサーお披露目会で初めてお会いしましたが、宮田さんは建築やアートが大好きで、僕の建築も僕と出会う前から知ってくださっていました。宮田さんが「藤本さんに校舎を設計してほしい」と言ってくださって、本プロジェクト「Co-Innovation University(仮称)(2026年4月開校予定)」がスタートしました。大学の敷地は、JR飛騨古川駅の南側で、いわゆる伝統的な飛騨の路地と白壁土蔵街があるエリアから川を挟んだ向こう岸にあります。また、駅の北東側には工場跡地と駐車場があり、大きな空き地があります。同じクライアント繋がりの方々がその空きスペースで、大学と連携する広場や地域の共創拠点「飛騨古川駅東開発プロジェクト(2025年3月)」の整備を行うことが決まりました。大学と共創拠点施設で飛騨の街を挟み込むことによって、人が集まるだけでなく、古い街にも人の流れをつくり出して飛騨の街全体を活性化していくということで、同時並行で大学校舎と共創拠点施設を設計しています。

大学の校舎は、宮田さんの「学生が大学に来た時に最初に大学のフィロソフィーを象徴的に体験できる、あるいは発信できるようなメインのビューをつくりたい」という考えを元に構想しました。この言葉を聞いた時に頭に浮かんだのがルイス・カーン(1901〜1974年)の「ソーク生物学研究所(1966年)」でした。太平洋に向かって中庭が広がっていて、両側に研究棟が建っていて、美しいビューがある研究所です。しかし飛騨には太平洋はないのでどうしようかと思っていた時に、斜面にすれば空に視線が抜けるのではないかと考えました。「ソーク生物学研究所」の場合は中庭の両側に建物が建っていますが、両側に建物が建っていると飛騨の街にはそぐわないと思ったので、両側も斜面にすることを考えました。周囲を丘の空間だけとして眺めを前方に集中させて、かつ斜面から空や山に視線を広げることはできないだろうか、ということを宮田さんと話し合いながらつくっていきました。上から見ると半分に割ったすり鉢のような形をしています。入り口に立つと、ほぼ全方向に空と飛騨の山しか見えない風景が広がります。

半分のすり鉢状でやろうとしているのは、大学のフィロソフィーの体現です。大学のテーマはみんなで共同しながらやるという「コ・クリエーション」で、フィロソフィーには、「地元に向き合う」というのがあります。さらに、飛騨にメインの校舎をつくりながらも、全国にサテライトキャンパスをつくってグローバルに学生たちに活躍してほしいというビジョンがあります。つまり、地元に根ざしながら、同時にグローバルにその先を見据えるような大学にしたいということです。それを象徴するのはどんな形だろうと考えた時に、実は、半分のすり鉢がすごく大切な意味を持ってきます。また、飛騨に初めて行った時に抱いたのは、飛騨の街自体が山でつくられたひとつの部屋のような一体感を持ちながら、山の向こうが見えないからこそ、その先の未知なるものを想像するような感覚、そして世界に繋がるような感覚でした。そこで半分のすり鉢では、一方で膝を突き合わせてローカルに向き合いながら、同時に外側を向くと山の向こうの未知なるものに対して思いやパッションを持つ、その両方を象徴する場所になるように大きな屋根面広場をつくっています。

「Co-Innovation University(仮称)」大学校舎の設計コンセプト

「Co-Innovation University(仮称)」大学校舎の設計コンセプト

俯瞰イメージ

俯瞰イメージ

校舎の屋根面広場イメージ

校舎の屋根面広場イメージ

入口側から校舎を見る。屋上はすり鉢を半分にしたような形状

入口側から校舎を見る
屋上はすり鉢を半分にしたような形状

広域配置 「Co-Innovation University(仮称)」と「飛騨古川駅東開発プロジェクト」は1.7km離れた位置関係にある

広域配置「Co-Innovation University(仮称)」と「飛騨古川駅東開発プロジェクト」は1.7km離れた位置関係にある

駅前の地域の共創拠点施設「飛騨古川駅東開発プロジェクト」は、商業、全天候型の子どもの遊び場、複数タイプの浴場がある温浴施設、「Co-Innovation University(仮称)」のサテライトキャンパス、宿泊施設など異なる機能が複合した場所です。こちらは、半分ではなくフルのすり鉢状の空間を提案しました。直径が100メートルほどのほぼ丸い形をしています。飛騨の伝統的な街区には美しい路地があり、町家が並んでいるので、最初は施設の各機能の間に魅力的な路地を通したらよいのではないかと話をしていました。しかし何をつくっても伝統的な街区には敵いません。そうであれば、伝統的な街区にはないもの、あるいは飛騨の街にはない空間体験をつくり出すことはできないだろうか。ヒューマンスケールの路地が巡っている街区が飛騨の伝統の特徴であるとした時、それと対極のものすごく大きな空間の体験をつくれないかと考えました。そこで、直径100メートルほどの大きな丸い空間で、屋上は平らではなく傾斜のあるすり鉢状としました。すり鉢の形は周りの街並みや山並みに繋がっていくので、盆地がそのまま建築化されるような大きさまで繋がっていくことができるのではないかと考えています。一方で、ひとつの大きな建築はインパクトはありますが、それだけでは単調になってしまいます。そこで屋上に多数の穴を開けています。この穴がいろいろなものが複合している屋根の下のプログラムに繋がっています。下の活動が顔を出し始めると、実はこのひとつの風景がものすごく多様なものたちの集まりとして見えてきます。飛騨の盆地を象徴するようなひとつの建築的風景の中に、さまざまな活動が顔を出して、それを一目で見ることができる。さらに、そこでのいろいろな活動を見た後にその中に入っていくことができる。そうした多様なものが響き合う場をつくれないだろうかと考えました。アートを置いたり、屋上にグリーンを入れたりしているので、季節によって全体の風景も変わっていきます。

「飛騨古川駅東開発プロジェクト」配置

「飛騨古川駅東開発プロジェクト」配置

全景イメージ

全景イメージ

内部イメージ

内部イメージ

屋根の下は各プログラムで分棟になっていて、屋根の下に路地空間のような場所をつくっています。路地を抜けて中央に向かっていくと、だんだん天井が低くなって、屋外の広場が目の前に広がります。屋根は中央に向かってすり鉢状に傾斜しており、中心部は屋根下の路地空間の床レベルに繋がっています。そのため屋根の下にいると思って路地空間を抜けるうちに、屋根上の広場と屋根下のヒューマンスケールの路地空間が同時に見えてきて、バリアフリーで屋根上の広場まで行くことができる不思議なつくりをしています。

設計コンセプト

設計コンセプト

屋上のスケッチ。春夏秋冬で景色が変わる

屋上のスケッチ
春夏秋冬で景色が変わる

「飛騨古川駅東開発プロジェクト」屋上イメージ。多様な活動が窺える

屋上イメージ
多様な活動が窺える

子どもの遊び場

子どもの遊び場

「Co-Innovation University(仮称)」の屋上は白い玉砂利のような風景であえて何もない場所として、その先を見据えるという象徴的な建築のつくり方をしています。「飛騨古川駅東開発プロジェクト」は、「太宰府天満宮 仮殿」以上にグリーンを載せて周りの山並みや盆地をそのまま建築化するような、自然のものを建築にするというスケールのスライドを試みています。


«前のページへ最初のページへ次のページへ»