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東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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長谷川 逸子 - コミュニケーションが開く建築シーン
異質なものをインクルードする「幕」
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東西アスファルト事業協同組合講演会

コミュニケーションが開く建築シーン

長谷川 逸子ITSUKO HASEGAWA


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異質なものをインクルードする「幕」
異質なものをインクルードする「幕」

そうした経験から私は、ごく自然に建築の中に自分なりのプログラムを内蔵させていることに気づきました。例えば、原っぱに幕を張り、その中に異質なるものを、そして不特定多数の関係性を包括することによって、社会性の取組みとランドスケープをまるごとくるんだ建築のあり方を見い出そうとするわけです。

「新潟市民文化会館」のコンペの要項は、2000人のコンサートホールと、900人のオペラ劇場と、350人の能楽堂と、それに付属する大中小さまざまな練習場を入れていくということでした。国策に従って日本のいろんな拠点都市に専用ホールをということでつくられています。専用のコンサートホールをつくり、シアターを、能楽堂をつくり、とする場合、所沢や松戸のように並列につなげていくのが素直な案のはずですし、そうした案がここでも求められていりことが要項でわかりました。わたしの頭の中には友人から聞いたこんな話が残っていました。話題のオペラやオーケストラの東京講演には新潟から来るひとが「ぴあ」の調査では10パーセントぐらいいるということです。私も新潟が音楽好きの多い町だということは知っていましたが、それでも200人のサントリーホール規模のホールが実現することはどういうことかと考えました。能楽堂についても考えました。伝統工芸が日本一残っていそうな新潟でも、ある特別の人たちのためだけのホールを公共としてつくってよいのかと。専門ホールとして使われながら、もっと独自な使い方と企画ができるプログラムができないかと。

そして、新しい演劇やパフォーマンスを考え、ヨーロッパのもの、日本のもの、伝統的なもの、コンテンポラリーなものが、クロスオーバーする新しい企画をつくるパフォーミンング・アーツセンターとすることを考えていくうち、私は楕円のまん幕を張っていました。新しいプログラムが新潟から発信され、新潟に外国の人もやって来て、文化を交差させながら東京とは違う芸術が生まれる建築を提案していける世界的な建築をつくりたいと考えていました。もちろん専門ホールとして使える性能はきちんともち、さらにクロスオーバーしながら新しい企画をプログラムとしてつくってほしいということを交えてプランをつくったものですから、それをだれが運営するのかと、役所の人たちもはじめは驚いていました。

そこでわたしは企画運営のスタッフを養成するワークショップを提案してきました。スタッフづくり講座には、全国から集まって来た300人ぐらいの応募者、その中から選ばれた80人の人たちに、新潟市の整備課の人たちも参加していただいて、三年計画で進めてています。講師の先生を招き、運営と制作の学習をするとともに公共ホールがどうあったらいいかなどの議論を続けています。「新潟市民文化会館」が建設される五年間を有効に使って人づくりをしよう、というワークショップです。

二年の設計期間が終わって、あと三年の工期の間、どれぐらい勉強できるかわかりませんが、公共事業をどう動かしたらいいかについて確実に見え出してきていると思います。人がいなければ建築は運営できないというのが公共けんちくをつくってきた私の感想です。ハードづくりとソフトづくりが平行して進んでいる今の状況はとてもすばらしく、新潟市に感謝しています。

新潟市民文化会館

何度か訪れたことのある新潟の町ですが、何か水の上に浮いている町といった印象がありました。事実そうしてつくられた町ではないかと思います。この建物も古い埋め立て地である信濃川べりに建てられます。川の淵、中洲、河原、そして浜には芸能などが栄えていたイメージが私の中にはあります。つまり解放区のようにフリースペースとしてエネルギーに満ちていて、そうした中でだんだん都市化していったのだと思うとき、水と私たちの町の芸術は切っても切れないと感じていました。特にこの新潟にはそういった思いがありました。川の中に浮いている中洲にとても美しいイメージがあり、私はこうした浮き島のようなものもつくりたいと最初のスケッチをしました。

既存のパーキングが使いよさそうなので、700台のパーキングをその状態のまま分散させておき、その上を空中庭園にしようと考えました。そして七つの浮き島を野外パフォーミングセンターとしたいと考えました。

以前、イギリスで貴族のオペラハウス、グラインドボーンに連れて行ってもらったことがありました。シャンペンなどピクニックの道具をもって出掛けるんです。昼は印象派の絵画の中に見るようなオシャレをして美しいイングリッシュガーデンに囲まれてピクニックをし、お酒が醒めてきたかなと思う夕刻にオペラがはじまります。途中でディナーパーティーをして夜中にロンドンに帰りました。

それは私たちの国でもできそうな風景でと思いました。日本の花見などとそう変わらないと感じたそのとき、駐車場から解放された庭園をつくりたいと考えました。私はここでオペラを見る前にピクニックをするというイメージが重なりました。そんなわけで、ここでも空中ブリッジ、空中庭園はまん幕というテーマとともに大きなコンセプトとして掲げています。

大きな空中庭園の下にパーキングがあります。春に市民のイベントが行われていたエリアは、それを大事にしてお祭り原っぱとして継続しています。桜の下でみんなが花見をしていたところは、空中庭園のまわりがサクラの丘になるようにできています。今まであったあり方をあまり消さずにランドスケープを作りあげたいと考えています。

いくつかのホールを大きな幕で包み込んでいるような建築です。この幕はガラスのまん幕で、特殊な遮光スクリーンを内蔵した極めて透明度の高い特殊複層ガラスのテクノロジカルなカーテンのようなものです。組み合わせによって遮光や、省エネなどさまざまな機能をはたすようにと、設備設計の人たちと二年間研究しました。

こうした大きなヴォリュームになると面積的になかなか厳しいですが、共有スペースをつくってます。全部回遊できるようなロビーです。仕切りによってコンサートホールのロビーにもなり、シアターのロビーにもなり、しかも回遊できるロビーをもつことによって、そこにさまざまな日常的な催しが行われるようにしたい。もちろん外側にも大きな原っぱがあり、いろんな催しができるわけですが、気候の悪いときには中でそうしたことを行えるようにしています。

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