アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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西沢大良 - 現代の建築
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2005 東西アスファルト事業協同組合講演会

現代の建築

西沢大良TAIRA NISHIZAWA


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立川のハウス
立川のハウス道路側外観
立川のハウス道路側外観

僕が初めて設計した住宅です。「立川のハウス」といいます。できたのは1996年で、10年前です。とても小さい住宅です。 立川市というのは東京の西部にあって、そのベッドタウンに建っています。敷地は、ケヤキ林とカーブした道路、そして南側だけを隣家に挟まれた、扇形の土地です。建物は思い切って道路側に寄せて建てました。理由は主にふたつあります。ひとつ目は日当たりと風通しです。南側にだけ隣家があるのですが、そこからなるべく離して建てて、庇を広くしたいと思いました。建物を道路側に寄せると、ちょうどケヤキ林のある東南の方角を向くので、方位的にもよいのです。ふたつ目の理由は、お施主さんはオーディオのコレクターで、ウエスタンエレクトリック社という、1950年代のアメリカ製のオーディオ機器を集めていたことがあります。どれも真空管式の機材で、劇場やダンスホールで使われていた機材なので、最低でもスピーカーから10メートル以上離れて聴かないと音がきれいに聞こえないという条件がありました。ですので、屋内に長い距離が必要で、建物を道路側に寄せたというわけです。ちなみに、屋外につっかえ棒がでていますが、これは、屋内にブレースや壁を設けないようにするためです。つまり、せっかくのオーディオスペースが目障りにならないようにしました。構造的にはこのつっかえ棒だけ鉄骨で、それ以外は木造の在来工法です。

もうひとつ変わっているのは、この住宅にはトンネルがあることです。つまり道路側に建物を寄せますと、道路に沿って駐車場をとれなくなりますから、建物に穴をあけまして、そのトンネルをくぐって庭に青空駐車することにしています。トンネルの大きさは、車が一台入るぎりぎりの大きさで、高さ1,840ミリです。車を立体的に覆う丸い穴になっています。ワンフロア40平方メートル強の小さな住宅ですから、大きなトンネルは屋内にとっては目障りになってしまうので、最小限の大きさにしています。

庭側の夕景 右手がダイニング、左手がオーディオ室
庭側の夕景。
右手がダイニング、左手がオーディオ室
内観
内観

一階はワンルームですが、トンネルが屋内に盛り上がって出ていて、ダイニングとオーディオ室が仕切られるようなかたちになっています。二階は子ども室とベッドルームとバスルーム。トンネル上部にかかる太鼓橋のような階段から上がっていきます。

僕が昔、修業時代にやっていた住宅にも、オーディオが趣味のお施主さんがいましたが、その頃はたいてい建物と一体化するようにオーディオを壁にビルトインしたりしていました。それができるだけの面積も予算もあったからですが、この住宅のように小さくなってくると、もうそういうことができません。ワンフロアが45平方メートル程度ですから、リスニングポイントを考えても、ビルトインはできないのです。古い機材ですから、アンプだけで大型の冷蔵庫よりも大きいし、さらに同様の大きさのスピーカーが3台あり、プレーヤーがまたちょうどこの演台くらいの大きさがあります。それをむき出しで置かなければいけないのですが、これについてはものすごく悩みました。インテリアが台無しになってしまうと思ったから。だけどどうやってもビルトインできないので、じゃあ露出して置いてもインテリアが見苦しくならない方法はあるだろうか、ということを考えはじめました。このように考えたのは、自分としては初めてでした。

そこで散々悩んだ末、室内の箱モノを、全部黒くしてみました。というのは、ウエスタンエレクトリック社のオーディオセット機器というのは黒くて四角いのです。黒かダークブラウン。ですからキッチンや下駄箱、エアコンボックスなども黒く四角い箱にしました。階段室も天井に四角い穴があいたように見えるので、黒くしました。そうすることで、ワンルームの中に黒い立体がパラパラとあるような感じになれば、オーディオ機器だけが目障りになることもないだろうと考えたわけです。床はワンルームの端から端までブルーのカーペットです。

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