アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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地下鉄駅のコンペティション案
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2007 東西アスファルト事業協同組合講演会

少しずつ建築のプロジェクトを進めている様子について

乾 久美子KUMIKO INUI

乾久美子-近影

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地下鉄駅のコンペティション案
「地下鉄駅のコンペティション案」。最初に与えられた土木構造体を示す図面
「地下鉄駅のコンペティション案」。最初に与えられた土木構造体を示す図面

「ヨーガンレール丸の内」が終わったあたりから、外装や内装ばかりでなくいわゆる建築の仕事がやりたいなあと思いはじめ、その手がかりとして、できる時に少しずつコンペに参加しはじめました。

これからお見せするのは、地下鉄のための土木構造体を、駅舎として設えるアイデアを競うものでした。つまり、いってみれば半分インテリアデザインみたいな内容です。インテリアの仕事にちょっと飽きているような時期だったので、どうしようかなと思ったのですが、ある時点でこのプロジェクトそのものの面白さに気づき、そのまま進めることにしました。場所は、中之島です。

敷地である地下鉄の土木構造体は、人のために設計されたものではなく、電車の長さと上部に走る道の形とで自動的に決まっているような無骨なものでした。当然のことなのですが、「駅舎というものは、建築としてつくられていないのだな」と、あらためて納得しました。

「地下鉄駅のコンペティション案」断面ドローイング
「地下鉄駅のコンペティション案」断面ドローイング

今見ていただいているのは、最初に与えられた平面図です。スタディをしているうちに、こうして自動的に決まってしまった構造体を適当に使うのは面白くないと思いはじめました。スケルトンとしての土木構造体/インフィルとしての建築的要素、という対立がつまらないと思ったのです。あまりにも慣習的な設計方法だということもありますし、何か、土木構造物に建築的要素をかぶせることが、土木建造物を隠蔽しているようで気持ち悪いと思つたからです。

ただのインフィルでないとすると、どういう方法があるのか。考えたのは、もとからあるスケルトンたる構造体にスポットライトを当てるようにインフィルを設定していくことでした。壁と床の位置を操作することで構造体を通常のように隠すのではなく、むしろ浮かび上がらせて構造体が生き生きと見えるようなものにしようとしています。いわば壁や床を、構造を浮かび上がらせるスポットライトと捉えることによって、スケルトン/インフィルという対立に見られる階層構造を崩してしまおうと思ったのです。スケルトンが大切なのか、インフィルが大切なのか、スケルトンが先でインフィルが後なのか、それともインフィルが先でスケルトンが後なのか、そうしたことがよくわからないものになったほうが面白いと思いました。

各室をばらばらに表したドローイング
各室をばらばらに表したドローイング
インフィルをスケルトンに付属されるものではなく、対等に扱われる
インフィルをスケルトンに付属されるものではなく、対等に扱われる

このプラットフォームは列柱空間になっていて、すこし荘厳な感じがします。エレベータ・シャフト、カフェでは、構造体の回りにエレベータをまとわりつかせています。こうした、構造体を主役にするような方法で、全体をつくってみました。これは断面パースです。柱や梁と全然関係のない場所に壁や天井のラインがひかれている、そのような図です。スポットライトをたくさん当てて土木構造物を浮かび上がらせている、という感じでしょうか。

さらにそれを個別にばらばらに見るとこうなります。もともとの構造体が壁・床・天井によって断片化し、本来の意味がかき消されていく。

このプロジェクトにおける私たちの興味とは、土木構造物からどれだけエレガントな空間を削り出すことができるのか、ということでした。スケルトンとしての構造物にいろいろな機能やアイテムをぺたぺたとくっつけることは非常に簡単です。多くの地下空間はそうしてできています。だけど、そうしてできた空間に、少なくとも私は飽き飽きしています。なぜなら、いつまでたっても、地下空間や、構造体の存在そのものを、受け入れようとしていないからです。いわば、多くの地下空間は粉飾されたというか、ごまかされた空間なわけです。そうしたものではない、もっと繊細なつくり方として、このスポットライトのような方法を考えました。

しかし、このコンペをやってわかったのは、自分が「内装の仕事」だと考えている範囲が非常に狭かったということでした。御殿場や丸の内の内装設計では自分なりに面白くすることができたと思っていたのですが、しかしよく考えれば、さきほどスターバックスのタンブラーを例に挙げて述べた枠組みの罠に陥っていたのかもしれなかったな、と反省したのです。なぜなら、どちらのプロジェクトでも内装の表面しか操作していなかったからです。ものごとにはさまざまな階層があるわけだから、自分がどの階層で勝負しているのかをいつも自覚していなくてはいけないのだ、そうしたことをこのコンペで再確認しました。

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