アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
妹島豊島の隣に、犬島という小さな島があります。島の中に集落があります。「金沢21世紀美術館」の平面と同じくらいの大きさの、とても小さな集落です。集落の住民は50名ほどで、毎日島にいる方だけですと2〜30名ほどです。平均年齢は80歳近いです。これも福武總一郎さんが始められた現代美術と地域再生のプロジェクトのひとつなのですが、集落に空き家がたくさんあるので、その空き家をお借りしてギャラリーに改修しようということで、「犬島『家プロジェクト』(2010年、2013年)」として、6年前くらいから始まりました。
福武さんと、全体のキュレーションをしてくださる長谷川祐子さんと一緒に島を歩きながら、貸していただけそうな空き家を探して交渉していきました。最終的に貸していただけることになったのは10カ所程度です。島に散らばっている空き家を少しずつギャラリーに改修していきます。それらをどう関係付けていくかを考える中で、最初はすべて白い四角のギャラリーにして、集落の家並みの中に白い四角が現れてくることでギャラリーと分かるようなまとめ方も考えました。でも、自然に恵まれ、季節ごとに花や果物が実るような魅力を持つ犬島という場所で、ギャラリーだけが四角く抽象的な感じなのもおかしいだろうと思いました。それからいろいろ話し合って、集落自体が美術館となるような、壁自体もなくして透明なギャラリーにして、風景と一緒に作品を見ることができるようにしました。
使えるものはなるべくリサイクルしてリノベーションし、リサイクルできない場合は新しくつくる、というように、いろいろな歴史、時間の長さが混在する状態がよいのではないかと思いました。3年に1回、「瀬戸内国際芸術祭」というトリエンナーレがあるのですが、それに合わせて3年ごとにギャラリーの企画展示が変わっていきます。
犬島は石で有名な島で、大阪城にもここの犬島石(花崗岩)が使われています。「犬島『家プロジェクト』」のひとつ目の「F邸(2010年)」は、石の神様を祭っている神社の麓にある空き家でした。解体して部材が使えるかどうかを調べていくと、状態がよかったので、構造材や屋根瓦など大部分をそのまま使うことにして、もう一度組み直しました。いろいろなところに使われていた島の石を積み直しながら、周りも整えていきました。緩いスロープのアプローチにも10〜15センチくらい積んで、徐々に全体をつくっていきました。既存の壁をすべて取り去ったので、高さ2メートルの耐震壁の中庭を建物の外につくりました。この「F邸」は、庭と繋がっている開放感が有ります。古い家屋の中にアートがあって、アートを見ようとすると必ず風景と一緒に見ることになるので、集落と共にある特別なギャラリーだと思います。
2013年に開催された2回目の瀬戸内国際芸術祭から、名和晃平さんの作品が展示されています。名和さんは、次のトリエンナーレまで3年間展示するので、少しずつ周りの庭にも作品を広げていきたいとおっしゃっていました。
次のギャラリーは、石山に挟まれたふたつの場所につくりました。既存の空き家は完全に崩れてしまっていたので、新しくアクリルを構造に使ったギャラリーをつくりました。道に面した「S邸(2010年)」と、奥の敷地の「A邸(2013年)」のふたつがセットになっています。ここには荒神明香さんのアートが展示されていて、S邸には円形レンズを使って集落のディテールを表現した作品、A邸の方は花畑のような作品が設置されています。
最初は、周囲の道に沿った緩いカーブのラインがよいと考え、建築にも大きなラインを描こうとしていたのですが、ある時、大きなカーブに違和感を持ち始めました。犬島は車が通らないこともあって、街全体がとても小さな部材や要素の集まりでつくられていることに気付きました。クレーンや重機を用いないで、人力だけでつくられた集落で、集落の中には、ただまっすぐのラインや大きな幾何学というのはありません。前面の道も緩くカーブしていますが、小さいかたちが繋がってできたカーブです。そこで巨大なひとつのカーブの建築をつくると、ファサードも大きな分厚いアクリルになり、透明でも、ある重みや強さが出てきてしまい、とても暴力的になると思いました。そこで途中で設計変更して、デザイン的には少し強すぎると感じられましたが、小さなきついカーブのアクリルを連ねていくことで、道なりのカーブをつくることにしました。そうすることで、アクリルの厚さを半分にすることができ、薄く軽やかになって周りとの連続性が感じられるものになりました。透明でも、厚みは感じられるものなのです。建材のスケールとしても、巨大なものではなくて、人力で持ち運べるスケールにかなり近いものになりました。このことを通して、場所に合わせるとはどういうことかを考えさせられました。
「中の谷の東屋(2010年)」は、丘の上の集落を見渡せるところにつくった休憩所です。ここでも単純なかたちになってしまうことを避けるために、3段階に分かれたカーブを使ってアルミの屋根を構成しました。屋根はできる限り高さを抑えているので、下に入って椅子に座ると、見える風景が変わり、床の勾配だけが感じられます。
「C邸(2013年)」は、元もとは集落の中でもひと際大きな家で、構造がとてもしっかりしていました。これもリサイクルしようということで、いったん全部解体して、選別して再建しました。1階にあった室内の間仕切り壁を撤去してしまったので、ブレースなどの補強材を入れなければならなくなり、既存の2階部分の構造から学んで、同様に大きな貫を2本入れ、1階はすべて雨戸形式としました。雨戸は取り外しが可能なので、展示によっては外部と繋がる土間としても使えます。完成してからは、ジュン・グエン=ハツシバさんの、犬島の石切場で撮影した映像を展示しています。
「I邸(2010年)」は、瀬戸内海に近い場所で、島の石でつくられた塀で囲まれています。ここでも既存の空き家を全部解体して部材を選別し、ほぼ元通りのかたちに組み立て直しました。大きな開口を斜めにふたつ開けて、畑と海へ視線が抜けるようにしました。
「家プロジェクト」全体を通して、車が入ってこないという島の特徴からスケールを決め、小さな要素で組み立てていくということを意識しました。それから、この島には昔からある家が多いですが、歴史的保存地区というわけではなく、わりと普通の家が建っているので、素材を全部木に揃えることにはこだわらず、元もとが木のものは木のまま、新しくつくるものにはアルミやアクリルなどの異素材も入れました。また、ここで採れる石など、集落のいろいろな場所に使われている既存の素材を組み立てて、風景に習いながら先に繋げていくようなことができないかと考えています。
次につくる予定のギャラリーは、アルミのハニカムで壁をつくったらどうかと考えています。壁に映り込んだ周りの風景の中でアートを見る。アートを見ているような、風景を見ているような、島の生活を見ているような、それぞれの人が考えながら組み立てていくギャラリーになると思います。
30人前後の島民が暮らしている小さな規模の集落なので、アートを見に訪れる人びとも、ギャラリーをつくる重要な要素のひとつになっています。ギャラリーをつくる予定の敷地はまだいくつかありますが、今すぐにつくるのか、そのためのワークショップをしたり道路の塀を整えたりすることから始めるのかは、まだ分かりません。少しずつ、みんなで何かをつくり続けていきたいと思います。