アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
西沢これは、山形県の鶴岡市に現在計画中の多目的ホールで、主に音楽と演劇のためのホールです。鶴岡市は、市民なら一度は文化会館を使ったことがあるというくらい、皆さんが演劇や音楽に慣れ親しんでいる、非常に文化レベルの高い街です。また、鶴岡市は折衷様式の明治時代のモダンな建物など、古い建物が多く残されている美しい街です。文化会館のある敷地は街中で、すぐ隣には元もと「致道館」という藩校[注2]がある、歴史ある場所です。
その他にも、アートフォーラムや市役所がある、歴史ある美しい地区です。そこに、致道館を囲むようにL字のかたちをした土地に、致道館に直面するようなかたちで大きなホールをつくることになります。現在の文化会館よりもさらに大きなフライタワーが要望されています。そのような状況で、どのような建ち方がよいかを考えました。背後は住宅ですし、隣の致道館は江戸時代のものですし、その横に30メートル近いフライタワーを持ったホールをつくるということで、どうやって周辺と高さを合わせていくかが課題でした。われわれが考えたのは、屋根を分割することでスケールを小さくしていくことと、建物の真ん中にフライタワーを置いて、軒を伸ばしたような建築とすることで、中央は高いけれど、周辺に向かうにつれて低くなっていくという断面構成、などです。多角形の敷地に合うような、柔軟な平面形状を持つものです。
建物中央にホールがきて、それを囲むようにホール周辺にパブリックスペースが巡るという、いわば
妹島建物の向きは都市計画的な観点から決まりました。フライタワーが高すぎると街から山を見る視線を遮ってしまうので、それを外すようなタワーの配置としました。それから、致道館に非常にきれいなお庭があるので、それを取り囲むようにL字のかたちの、二方向から入れるエントランスホールをつくりました。学校の発表会などで使われる場合にはたくさんの人がどんどん入ってくるので、ホールの周りにある練習室や会議室なども楽屋の延長として使われます。逆に、ホールが使われていない時は、楽屋なども市民が会議や集会などで使う場所になります。このように、劇場のバックゾーンが拡張される場合と、市民が使う場所が拡張される場合とで、フレキシブルに使えるようになっています。
フライタワーを中心に、長方形の屋根を必要な高さからどんどん低くしていきます。たくさん雪が降るところなので、雪を貯められるように角度を調整しながら、だんだんかたちが決まってきています。初めのうちはフライタワーも隠すようなかたちで進めていたのですが、大げさになってくるので、フライタワーは思い切って見せることにしました。屋根と屋根の間から少し光が入ってくるようになっています。屋根の一部がホールのインテリアの形状にも影響して、音響効果も考慮したかたちになっています。
西沢ハンス・シャロウン(1893〜1972年)が設計した「ベルリン・フィルハーモニー(1963年)」というヴィンヤード形式[注4]のコンサートホールが素晴らしいのですが、シャロウンはブドウ畑のようなかたちで客席テラス同士が繋がっていくようにしました。「鶴岡市文化会館」のホールの客席レイアウトも、シンメトリーではなく、ヴィンヤード形式の、畑的な段々構成です。上階の席の人が、ホワイエに出ることなく下まで降りてこられます。アンコールの時にみんなが立ち上がって、歩いてステージまで降りてこられる、演者と観客が一体感を感じることがができるものを目指しています。
妹島要求条件が1,200席だったのですが、実際に1,200席クラスのイベントはそこまで多くはないということでした。そのため、1階と2階とで完全に分けてしまうと、空いている席が広がっているのが見えてよくないので、なるべくこぢんまりとしたものが積み重なって、席が埋まっていない時でも気にならないように、と考えました。また、なるべく奥行を小さくしてホール内に一体感をつくろうとしています。
敷地の前に低い藩校の塀があって、この辺一体が公園地区にもなっています。このホールは、地域の中で飛び抜けてスケールが大きいものになってしまうのですが、周辺に向かうほどスケールを落として、なるべく屋根の裾野が公園文化地区に繋がっていくようにつくろうとしています。
[注2] 江戸時代に、諸藩が藩士の子弟を教育するために設立した学校。藩学(はんがく)とも言う。
[注3] 古い建物を覆うように新しい建物を建てる方式。今回は「二重構造」の形式という意味で使われている。
[注4] 客席が段々畑のようにブロック分割されているかたち。一般のシューボックス型に比べて多くの客席からステージがよく見え、音響的にも客席間の差が少ない。