アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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大西麻貴+百田有希/o+h - 愛される建築を目指して
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2023 東西アスファルト事業協同組合講演会

愛される建築を目指して

大西麻貴+百田有希/o+hMAKI OHNISH + YUKI MOMOTA


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Good Job! Center KASHIBA

百田「Good Job! Center KASHIBA(2016年)」は奈良の香芝市でつくった障害者福祉施設で、障害のある人と共に仕事をつくっていく拠点です。まず既存の建築を見学させてもらうところからプロジェクトはスタートしました。既存のスペースも魅力的で、特に、いろんな人がいろんな方法で創作活動しているというのがよいなと思いました。また同時に、違いを認め、違いを大切にするというクライアントの理念を共有するということも始めました。ひとりひとりの違いを認め、違いを大切にして、よい面を伸ばしていける環境をつくること、障害のあるなしにかかわらずここに集うすべての人たちがその人のままでいられることなど、これは障害者福祉のみならず、これからの僕たちの社会が、どういう方向を目指すべきかということを示したものだと感じました。この理念を受けてつくったのが、壁や床、屋根、家具といったさまざまな要素が一気に集まったような建築です。こっちでは発送作業をしている人がいて、オフィスワークをしている人もいる、あちらでは物づくりをしている人がいる、というように、いろんな作業や活動がそれぞれ別々に行われていながらもひとつでもある、という状況を表していると思います。福祉施設はどうしても制度が建築になったような構成になりがちです。障害者福祉の制度では、就労継続支援A型、B型のための部屋は共用部を介して区画しなければいけないというのが前提になっています。ただ実際は、障害の程度だけで一律に決められるものではなく、その人がその日できることも日によって違うかもしれないので、その人のその時の気持ちに合わせてやることや滞在する場所が選べるような、もうちょっとグラデーショナルな空間構成がいいんじゃないかなと思いました。敷地は2面道路に囲まれている角地で、閉じなければいけない部屋は敷地奥にまとめて、そこから道路に向かって壁がいろんな方向にバラバラとほどけてさまざまな居場所をつくっていきます。例えば主出入口側ではハの字のように壁が腕を広げて人を迎えるエントランスになったり、アトリエ奥では壁で勝手口ができています。全体としては真ん中にオフィスがあり、その周りをぐるっと回遊できるワンルーム空間になっているのが特徴です。2階は大きく3つの吹き抜けを設け、広い明るい場所と少し暗い場所がある抑揚のある空間構成を目指しました。大きな吹き抜けを横断する2枚の斜めの壁はシルバーに塗装し、外の光や緑を内側に引き込む役割を果たしています。主出入口から中に入るとカフェがあって一般の人も訪れることができます。さらにカフェ横の階段を上がっていくと2階にはショップと倉庫があり、倉庫にはここで売られている商品がストックされているので、何となく奥の方にもズルズルと入っていけるような構成になっています。奥に行くと作業スペースで物づくりをしている様子が窺えます。これは僕が好きな写真で、壁を1枚隔てて休憩している人と働いている人が共存している状況がよく分かります。この建築は壁を千鳥状に積み重ねるという幾何学のルールでできています。ただその幾何学のルールを徹底するというより、ルールが逸脱しても人間の居場所をつくるということを優先しました。また、この壁をつくると同時に隙間もできるので、繋ぐことと隔てることが同時に現れます。こういうことを大切にしながらこの建築をつくっていきました。ここでは自分と違う人が一緒の空間にいてもよいと思えます。それは、違いを認め、違いを大切にするという理念に対する、建築としてのひとつの応答だと考えています。

「Good Job! Center KASHIBA」南側全景

「Good Job! Center KASHIBA」南側全景

エントランスホール

エントランスホール

カフェ。2階にショップが見える

カフェ
2階にショップが見える

壁1枚を隔てて異なる活動が隣り合う

壁1枚を隔てて異なる活動が隣り合う

2階平面

2階平面

1階平面

1階平面

このプロジェクトを経て、これから大切にしたい世界の見方や価値観というものが芽生えてきました。それを表したのがダイアグラムです。僕たちが大切にしたいのは、インクルーシブな価値観です。一方ユニバーサルな価値観は、ひとつの大きな価値観で全体を包摂していこうというものです。みんなで共有できるけれども、ひとりひとりの違いはなくなっていくことに繋がるかもしれない。例えば誰でも使える多目的トイレを考えると、どんどんデザインとしては無個性なものに向かっていくことになるかもしれない。反対に、インクルーシブな価値観は特別な人から考えをスタートさせます。例えば、片半身が動かない人と一緒に考えたポシェットが授乳中のお母さんにとっても使いやすい、というように特別な人の具体的に困っている問題から始めたとしても、その人だけではなく、その人のもう少し周りの人とも一緒に共有できるようなかたちで考えていく。ひとつの輪によって社会全体を包摂できなくとも、いくつかの輪で全体が包摂されればいいんじゃないかということです。このような価値観を大切にしていきたいと、「Good Job! Center KASHIBA」を通して思いました。

断面

断面

「Good Job! Center KASHIBA」を経て生まれた価値観のダイアグラム

「Good Job! Center KASHIBA」を経て生まれた価値観のダイアグラム


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