アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
大西最後にご紹介するのが、まさに今設計をしていて来年度から施工が始まる、鹿児島県の桜島を丸ごと学び舎にする義務教育学校「桜島学校(2026年開校予定)」のプロジェクトです。「シェルターインクルーシブプレイス コパル」や「Good Job! Center KASHIBA」を経験して、多様な人を受け入れることを建築を通して考える中で、どうやって子どもたちが学ぶのか、どうやって社会の価値観が形づくられていくのか、その時に建築や空間はどんな役割を果たせるのかということに非常に興味が湧いてきて、学校建築を設計してみたいなと思っていました。そんな中この「桜島学校」を設計できることになって、今一生懸命取り組んでいるプロジェクトのひとつです。桜島はご存知の通り鹿児島県を象徴する火山で、今でも毎日噴火するような大変ダイナミックな存在がすぐそばにありながらみなさん暮らしています。元もと8個あった小中学校をひとつに統合し、義務教育1年生から9年生までの学校をつくるので、地域からはその他の学校がなくなってしまうのですが、だからこそこの学校だけで学ぶのではなくて、桜島丸ごとを学び舎にするような、学校から島に出かけていって学びたくなるような仕組みをつくっていけないかと考えました。また、鹿児島県は薩摩藩だった時に、先生から子どもへだけでなく、先輩と後輩や子ども同士が互いに教え学び合うという特徴的かつ実践的な「郷中教育」と呼ばれる教育方法があったので、「桜島学校」でも子ども同士が互いに教え、学び合える環境をつくりたいと思いました。私たちが今提案しているのは、ホームとなってここから外に出かけて行きたくなるような分棟形式の学校です。敷地は桜島の御岳、まさに噴火している様子と、錦江湾という海の風景とそれに隣接する松林が見える場所です。2方向に非常に特徴的な風景があるので、片廊下にするのではなくて、両方向に視界が開けるように廊下を通して各棟を繋いでいく構成を考えています。廊下は雁行していて「ブックパサージュ」と呼んでいます。中心にコアとなる公民館と一体となった大きな図書館があり、そこから図書館ゾーンが伸びていって廊下がすべて図書館のような場所になっている学校を考えています。雁行するブックパサージュでは、いろんなところに学びの場所が生まれ、そこが子どもたちが互いに教え合えるような場所になります。あるいは、教室に行くことに、心理的に少しハードルがあるようないろんな子どもたちのための居場所になっていたり、少人数教室としても使える場所となることを考えています。教室の配置としては、1棟に対して3学年のクラスルームと特別支援学級を配し、3学年でひとつの家を持ち、それぞれが仲間として一緒にひとつの家をつくっていくような関係性が生まれるとよいなと思っています。また、廊下である「ブックパサージュ」に面している壁を「働くルーバー壁」と呼んでいて、子どもたちが自ら働きかけたくなる壁にしたいと考えています。ベンチが付いていたり、掲示物を打ち付けることができたり、本棚が引っかかっていたり、それぞれを付け替えることもできるさまざまな仕掛けがこの壁をきっかけに生まれてくる仕上げを計画しています。また、この学校は普通教室と美術室や音楽室等の特別教室に分類される教室がある特別教室型の学校ですが、例えば家庭科室と理科室は名前は違うけれど、設えはほとんど一緒ということもよくあると思います。そこで、ここではむしろ場所自体をどんな特別教室として使いたいかを考えました。例えば、コンクリートの壁に囲われたところは防音されているので音楽室として使ってみたり、床が土間仕上げになっているところは水も流せるものづくりのできる図工室になるし、小上がりになっているところは縫い物ができる家庭教室になるとか、道具類が壁一面に飾ってあるところは工房のように使われたり、街に向けた出窓があるところは地域と繋がるプログラムが立ち上がる教室になったり、建築の場所の違いが、特別教室のいろんな使い方を触発するようにつくりたいと考えています。
また「シェルターインクルーシブプレイス コパル」以降、建築のプログラムや使い方を考えること、あるいは、竣工後どうやって使うかを考えていくことと、建築を設計することは自然に一緒に考えるべきことだという思いが積み重なってきています。「桜島学校」も地域のみなさんと一緒につくっていけたらなと思い、こういう学校をつくろうと思っているということをタブロイドをお配りして地域の方にお知らせしたり、学校の先生方と協力しながら桜島ならではの学び方づくりも進めているところです。
「桜島学校」模型
ブックパッサージュが空間を繋ぐ
空間が使い方を触発する特別教室
ブックパッサージュイメージ
中心となる図書館から桜島を望むイメージ
百田本日お話しした、違いを認め違いを大切にする、個性を大切にする、という考え方や、ひとつのものに多重の意味を見出していくという考え方は、ひとつの建築をつくるだけでなく、これからの社会を考えていく上でも大切なことだと思っています。例えば福祉について考えてみると、高齢者福祉、障害者福祉、保育がそれぞれ別々の建物で行われているのは、それは制度が別々だからだと思うんですね。街の中に、その街の特徴を感じられてそこに行ってご飯を食べたら誰もが最高だなと思う場所があったら、おじいちゃんもおばあちゃんも障害のある人もない人も子どもたちも、動物だって一緒に集まって、ご飯を食べたらよいと思うんです。そういう場所の個性等を共有することで、もう1回社会がどういうふうにあったらよいのかを考えていくことができるのではないかと思います。日本の社会は、人口も減って小さくなっていきますが、小さくひとつになりながらもいろんな意味を発見して豊かに生きていくことを考えていくということが、これから大切になるのかなと思っています。
以上で講演を終わります。ありがとうございました。