アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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大西麻貴+百田有希/o+h - 愛される建築を目指して
熊本地震 震災ミュージアム 体験・展示施設 KIOKU
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愛される建築を目指して

大西麻貴+百田有希/o+hMAKI OHNISH + YUKI MOMOTA


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熊本地震 震災ミュージアム 体験・展示施設 KIOKU

百田熊本県の「熊本地震 震災ミュージアム 体験・展示施設 KIOKU(2023年)」は僕たちo+hと、産紘設計という熊本の設計事務所とのJVで設計したプロジェクトになります。単体のミュージアムではなく、熊本県中にいくつも点在している震災遺構のネットワーク全体に対して、中核拠点としてこのミュージアムは位置付けられています。熊本地震を引き起こした布田川断層が、阿蘇から熊本市外に向けて通っています。そこに震災遺構が点在するように並んでいるのですが、都市から大自然に向かっていく中で、自然と人間の営みがさまざまなかたちでクロスしていくのが分かります。例えば、集落の中にある震災遺構や、自然と都市部が出合うところには神社があったり、また阿蘇の山の中には山の斜面が大規模に崩落した山腹崩壊の震災遺構があったりします。今回僕たちが計画した建築は阿蘇に位置する、周囲がダイナミックな自然環境に取り囲まれている敷地で、この自然環境と呼応するような有機的な建築をつくりたいと思いました。そして考えたのが、屋根が有機的に連なっていく建築です。この屋根は阿蘇の風景を切り取るように、向きや勾配を考えて決めています。例えば、外輪山という山に向かって架けられていたり、阿蘇山の火口に向かっていたり、山腹崩壊の震災遺構に向かって架けられています。そうすることで敷地を越えた大きな環境を結べる建築になるのではないかと考えました。また、3つの展示室を半屋外の軒下で繋ぐように屋根を架け、震災遺構の旧東海大学阿蘇校舎1号館の経験も連続的なものになるのではないかと考えました。

この建築は鉄筋コンクリート造のコアで水平力を取り、そこに木造の屋根が架かる構成になっています。このような細長い建築をつくった時に問題となるのが、地震時に細い部分がどういう挙動をするのかということです。解析をしてもらい、鉄筋コンクリート造の壁が硬いので地震力はほとんどがコアの3カ所に分かれて吸収されるため、木造屋根を通じて地震力の伝達はないと確認しています。ただそうすると、普通はエキスパンションジョイントで切ってしまうところですが、意匠的には屋根を繋げたいので、屋根の面内の動きがどれぐらいになるかを調べ、1,000分の1の面内の変形角であるということを同時に確認しています。地震力を伝えるには柔らかいけれど、防水性能や仕上げを連続させるには十分固いということを確認して、この一体的な屋根が実現できました。「シェルターインクルーシブプレイス コパル」もこの「熊本地震 震災ミュージアム 体験・展示施設 KIOKU」も、平岩構造計画の平岩良之さんと一緒に取り組みました。

また、熊本の雄大な自然に対して、材料についても呼応する建築をつくりたいと思いました。そこで阿蘇のリサーチをしました。阿蘇の火口は地球の大地の動きを身体的に感じることができる場所でした。また、阿蘇では野焼きをする様子がよく見られるのですが、この野焼きも建築に取り入れられないかと考えました。現場が始まって第1回目のミーティングでは、図面の読み合わせをするのではなく、まず施工者さんと一緒に敷地の野焼きをした灰を拾うことをやりました。その灰をタイルの釉薬に使っているのですが、灰には表面を少しマットにする効果があります。阿蘇の大地を感じさせるようなタイルを試作で焼いてもらい、それを明るい色から暗い色に分類し、現場でグラデーションになるように貼っていきました。また、阿蘇を訪れて面白いと思ったのは道路が緑色をしていることでした。調べてみると、阿蘇の道路にははんれい岩という熊本県の山鹿という地域で採れる骨材が使われていることが分かりました。そこで、鉄筋コンクリートの壁と床ははんれい岩の骨材を洗い出した仕上げにしています。

「熊本地震 震災ミュージアム 体験・展示施設 KIOKU」東側俯瞰

「熊本地震 震災ミュージアム 体験・展示施設 KIOKU」東側俯瞰

エントランス越しに阿蘇山を望む広場を見る

エントランス越しに阿蘇山を望む広場を見る

企画展示室・交流ラウンジ

企画展示室・交流ラウンジ

コンクリートの外壁は阿蘇地域の道路で使われる緑色のはんれい岩を骨材に使用した洗い出し

コンクリートの外壁は阿蘇地域の道路で使われる緑色のはんれい岩を骨材に使用した洗い出し

平面

平面

小梁状

小梁状


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